はじめに
マーケット感覚を身につけてスキームの矛盾をつく
月3~5%のリターンを実現するのは、彼がいうように容易いことなのでしょうか。仮に月5%のリターンを安定的に実現できるとしたら、年間のリターンは5%×12か月で年60%になります。低く見積もって月3%だとしても、年間のリターンは36%です。しかも、私が「そもそも何を投資対象にして運用するのですか?」という質問に対する彼の答えは「FX(外国為替証拠金取引)です」ということでした。恐らく、実際にFXで売買をした経験のある人なら、そんなに容易く「月3~5%は実現可能」とはいわないでしょう。
たしかに、相場の見通しが当たれば1年間でもっと高いリターンを得ることは可能です。2022年のドル円相場を見ても、1月時点で1ドル=115円前後だったのが、10月には1ドル=150円までドル高が進みましたから、この間、ずっとドルを持っていれば、かなりの高いリターンが得られています。
といっても、ドルの上昇率は10カ月間で30%ですから、これだけドル高が昂進したにも関わらず、月平均のリターンは3%程度ですし、年末にかけては1ドル=135円前後までドル安が進んだので、1年を通じての月間平均リターンで見れば、たったの1.4%程度にしかなりません。
もちろん、FXですからレバレッジを効かせることが可能です。だから月3~5%のリターンを実現できるということもできますが、レバレッジはプラスに働くこともあれば、マイナスに作用することもあります。高めのレバレッジをかけてドルを買った後、ドル安が進めば、損失はレバレッジに比例して大きくなりますし、そもそもFXは短期的な為替相場の方向性を当てにいくゲームですから、当然のことながら当たり外れが生じてきます。
このように、マーケットの常識を当てはめて考えていくと、「FXの運用で月3~5%のリターンを実現するのは、そんなに難しいことではありません」などとは決していえないはずなのです。
マーケットの仕組みを理解しよう
以前、医療保険請求債権(MARS)を証券化して、日本国内で10年以上にわたって販売した業者も、日本市場に参入してきた1998年当時、変なことをいっていました。「この証券化商品は年10%のリターンが得られ、かつドル建てと円建てを選ぶことができます。リターンは同じです。しかも元本確保型です」というのです。
そもそも米国のMARSを投資対象にした証券化商品ですから、基本的に投資通貨はドル建てです。それを円建てにするにはどこかで為替先物予約を行ってヘッジをかける必要があります。当時、日本の金利は米国よりもはるかに低かったので、先物でドルの売り予約をすると、日米金利差分がヘッジコストとして差し引かれますから、どう考えてもドル建てと円建てが同じリターンになるはずがありません。その点を取材で指摘したところ、「いえいえ。この証券化商品は、為替相場を取りに行きますから」というのです。
為替相場を取りに行けば、そこには為替差損を被るリスクが生じてきます。常識的に考えれば、元本確保というスキームは実現不可能です。
これだけの矛盾点を抱えながらも、この業者は10年にわたって日本国内で資金を集めました。上記の矛盾点についても、指摘されてさすがにマズイと思ったのか、後日、ドル建てと円建てのリターンに差を付けて標示するようになりましたが、結果的に彼らが10年以上にわたって集めた1000億円超の資金は、今も返還のメドが立っていません。
このように、マーケットの仕組みを理解していれば、スキームの矛盾点に気付くことができます。資産運用詐欺に騙されないようにするためには、まずマーケットの仕組みをしっかり理解することが大事です。