はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は内藤忍氏がお答えします。
自分でも不思議だとは思うのですが、「お金儲け」することに対して躊躇してしまいます。私は小さいながら個人事業を営んでいるので、時折、うまくいけばかなり儲かりそうな仕事の話が舞い込むことがあるのですが、つい遠慮してしまいます。
幸いにも、ひとり暮らしで一般的な生活ができており、自分のなかではそれなりに生活にも満足しているのですが、他人からみるとかなり変に見えるらしく、彼女からも「あなたはおかしい」と、バカにされる始末。
どうしてこんな思考なのか振り返ってみると、私はどこかで「自分が得をすれば、どこかで誰かが損をしているのではないか」と考えてしまっているようです。それによって、つい判断が鈍ってしまいます。こんな私にお金のプロの方から喝を入れていただきたいです。また、お金のプロの方のお金との向き合い方についてお話を聞かせてください。
(20代後半 独身 男性)
内藤: ご質問ありがとうございます。
資産運用の分野で考えてみると、お金を儲けるための方法には「投資」と「投機」の2種類があると思っています。
投資は世の中に新しい価値を提供すること
投資とは、自分のお金が有効に使われることによって、世の中に新しい価値を創造することです。
例えば、自分で会社をゼロから立ち上げ、今まで世の中になかった商品やサービスを提供することは、新たな価値を創り出していると言えます。この場合、価値が生み出された分、プラスが生まれているため、誰も損をしていません。世の中の人、全員が得している可能性もあるのです。
また、そのような会社に資金投資というかたちで協力する場合も、新たな価値の創造に協力していると言えるのです。
具体的な企業を例にとれば、アップルがiPhoneを開発し、企業価値が上がったことで、株主にはリターンがもたらされました。同時に、製品を通じ、世界の人たちにも便利な通信端末という価値を提供することができたわけです。
投機は富の“奪い合い”
上記のような投資とは対照的に、投機とは富の創造ではなく奪い合いです。同じ株式取引でも、短期の売買であれば投資ではなく投機になってしまいます。
デイトレードのような短期の売買で得られた利益には、価値の創造はほとんどありません。
投機とは、言うなれば大きさが決まった1つのケーキをどのように分けるのかをみんなで奪い合うような状態です。自分が大きな分け前を取れれば、ほかの人にそのしわ寄せがいくということです。
このように、資産運用の世界には、社会の役に立つことによって得られる利益(投資の利益)と、社会の誰かを犠牲にすることによって得られる利益(投機の利益)の2つがあると思っています。
お金は自分自身の資産でもありますが、同時に社会の公器である企業を活性化させるものという側面もあります。資産を持っている人が、自分の資産を金庫に入れて活用しなければ、経済活動は停滞し、投資による価値の創造ができなくなります。
その意味で、私は資産を持っている方には、投資によって社会に価値を創造するサポートを行う義務があるとさえ思います。
ビジネスにせよ、投資にせよ、利益というものは世の中に対して価値提供したことに対する「社会からのお礼」と考えることができます。利益を出していない企業は、ビジネスのやり方を間違え、投資から価値が生み出されていないということを意味するのです。
このように考えていくと、自分で仕事をしたり、お金に働いてもらったりして利益を得ることは、決してやましいことではなく、むしろ誇りに思うべき行いだとわかると思います。
お金儲けとは社会貢献である――。そう考えれば、きっとお金との付き合い方も変わるはずです。