はじめに
商品名が持つコミュニケーション力に注視せよ
伝える相手をいつも思い描き、ネーミングでの対話を試みよう。
5の「伝える相手をいつも思い描き、ネーミングでの対話を試みよう」。むろんネーミング作成の際も、多くの人に問いかけることで、それが通用するか否かを判断し、また改良点など見出だします。
この件について最早、言葉を費やすこともないでしょう。ホッファーのような読書を通じての自問自答も、充分にコミュニケーションと言えるかもしれません。
しかし、ネーミングがコミュニカティブかどうか――という意味合いも実はそこにはあるのです。簡単に言えば、目にしていて、実際の字数以上に言葉が膨らんでくる。一個のネーミングが勝手に複数の言葉を連想させる。いや、それを用いてのやり取りまでにも増幅するようなイメージです。
2000年よりサントリーフーズから発売されている機能性飲料、「DAKARA」のネーミングはその意味で大変優れています。「〜だから」という問いかけ、「だから!」という自信、カラダ(身体)とのアナグラム……非常に多層的でコミュニカティブ。キャッチフレーズの「カラダ・バランス飲料」がさらに援護射撃します。
サントリー公式サイト・商品ページよりキャプチャ
ほかの機能性飲料がスポーツと絡めて訴求されるのと違い、製品自体もしっかり差別化ができています。調査の結果、一般にスポーツドリンクが飲まれるのは、スポーツ後ではなく、むしろ二日酔いの後や仕事の合間など、食生活の乱れを調整する意識ゆえ。だから、そのようにコンセプトが再設定され、研究にもさらに2年を要したそうです。
12年4月から発売されている派生製品の「GREEN DA・KA・RA(グリーン ダカラ)」の広告展開もツボを得ていますね。これは11種類の自然素材と純水だけで水分補給に適したイオン濃度と浸透圧に調整されている。だから、より健康飲料をアピールできるのです。
グリーンダカラちゃんという子役のキャラを立たせたCMもおもしろい。放映開始の段階ではわずか3歳という、しずくちゃんはほとんど素人。仲良しの実の妹、なぎさちゃんがおり、13年7月発売の姉妹商品「やさしい麦茶」のキャラクター、ムギちゃんとしてCMに登場しています。
サントリーはほかにも「なっちゃん」という、秀抜な呼びかけネーミングのロングセラー商品も販売しています。これなど「みんなで楽しく遊んだ夏、隣に住んでいた女の子の名前」という設定からネーミングされました。なっちゃんと飲んだあのジュース、おいしかった──という豊かな情緒性がある。初代なっちゃんの女優の田中麗奈はおかげで大いに売り出しました。
サントリーにはかつてオレンジ50という、“♪私言います 母さんに〜”のコマソンも名曲として残っている商品がありました。ここでも女優の原田美枝子がセットで売り出された。コミュニカティブな広告展開が得意なのです。
看板のウィスキーは当然、誰かと飲む前提。それは大衆品のレッドでも高級品のローヤルでも変わらない。呼びかける相手が違うだけ。レッドなら、女優の大原麗子が市川崑演出のドラマ仕立ての世界の中で「少し愛して長く愛して」とつぶやく。リザーブなら、名監督黒澤明が撮影スタッフと大いに歓談する場面を捉える。
ちなみに同社は最初のヒット商品である「赤玉ポートワイン」の赤玉がもともと現している「太陽=サン」と、創業者の鳥井信治郎の鳥井の「トリー」をくっつけ、社名もサントリーとしたそうです。しかし、ここにも単に鳥井さんを逆さにしただけ――という都市伝説が残されている。いまだに非上場でファミリー気質が強い会社ならでは……と思ってしまいます。
コンビニの棚には商品があふれ、人々はネットでも仮想のコミュニケーションに溺れつつ、実は相当に乾いて・渇いている。そこへこんな“呼んでいる”ネーミングの商品が目に飛び込んでくると、客は思わず応じてしまう。ストレートな呼びかけネーミングでなくとも、商品名が持つコミュニケーション力にはぜひ留意してください。
今回ご紹介するのは以上になります。本書では、残りの2か条でも実在する商品名を交えるなどして「ネーミングのノウハウ」について解説しています。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
『最強のネーミング』 岩永嘉弘 著
商品・サービス名等のネーミングの付け方を第一人者が教える。様々な事例も載せた実践的な内容。著者の代表作『日清oillio』『ホンダFIT』『月刊STORY』『渋谷109』『日立洗濯機からまん棒』『大手町Hotoria』『駅弁元気甲斐』など。