はじめに
本“棚”という形状にこだわる必要はない
(C)丹野雄二
ヘンリー・ペトロスキー著『本棚の歴史』(白水社)によると、本は古来「鎖で縛る」「読 書台に紐でつなぐ」「保管箱に密閉する」など、さまざまな保管方法が取られていましたが、 中世の印刷産業の発展とともに、現在のような本棚で保管されるようになったそうです。家庭用の本棚が普及した背景として、「本棚の形状で個人が本を保管することで、棚を埋めたいという心理が働き、本の販売が促進される」という、書籍販売者側の販促戦略があったとのこと。
たしかに書店や図書館で本を選ぶ時や、来客に自分の本のコレクションを見せるには、背表紙がずらっと並んだ棚形式は便利です。しかし、本棚は日本の住宅に置くには背丈の高い家具であり、居住スペース内にありながら、普段触るのは棚スペースのせいぜい数パーセント程度。大型の家具を並べる余裕のある広い家ならまだしも、居住スペースが限られる日本の住居において、本棚は使用頻度のそれほど高くないモノを、「全品ディスプレイ」で収納するという、かなり贅沢な保管方法なのです。
また震災時などには倒壊しやすく、本棚の下敷きにならないように就寝スペースを制限してしまいます。本の上には埃が溜まりやすく、高い段にある本ほど部屋の蛍光灯を直接浴びるので、紙は少しずつ劣化していきます。
本を大切にしたいのなら、本棚にギュウギュウに詰め込むのではなく、「適切な箇所に分散配置+すぐ読まない本は蓋付きの箱に保管」の組み合わせがおすすめです。しばらく手に取らない本は、押し入れのサイズに合わせた引き出し型の衣装ケースに詰め込めば、本棚よりも省スペースで、埃や日射しから本を守れます。
私の自宅では本棚は置かず、長期保存する本は衣装ケースに詰めて押し入れへ、「いま読みたい本」はデスク横のロッカー、キッチン、脱衣所、玄関などに分散し、1〜2冊ずつブックスタンドに立てて配置しています。 脱衣所に置いておけば、入浴タイムにさっと手に取ることができ、キッチンに置いておけば、煮込み料理の煮込み待ちが読書時間に変わります。玄関に置いておけば、外出時に持って出やすくなるでしょう。
苦手分野の本でギュウギュウの本棚や、積読の山が自宅にあると、新しい本への関心も削がれてしまうもの。季節の変わり目でもあるこの時期にぜひ、自宅の本を総点検して、今読むべき本だけ、目に入る状態を作りましょう。