はじめに
秋の風物詩「サンマ」。そして、おせち料理にも使われ、年末年始に向けて、これから需要が高まる「イクラ」。これら、旬の海産物の価格が高騰しています。
一方で、値下がりしているのが「イワシ」です。マイワシは10年前に比べると、漁獲量が5倍に増加、価格は1キログラム当たり49円と半値以下になっています。
価格が大きく変動している海産物。いったい、日本の海に何が起きているのでしょうか。
イクラの卸値は去年の倍に
「昨年の秋から価格が上昇し、取引価格は1年前の1.5~2倍になっています」。築地市場の大卸業者は、そう言ってため息を漏らします。
総務省の小売物価統計調査(東京)によると、イクラの小売価格が昨年よりも2割近く値上がりし、9月の時点で100グラム当たり1,446円となっています。流通関係者は「現在の店頭価格は昨年からほぼ変えずに据え置いていますが、秋サケの漁獲量が下がっているため、年末にかけて値上がりする可能性があります」と明かします。
高騰しているのはイクラだけではありません。今年はサンマも不漁が続き、値上がりしています。
漁業情報サービスセンターによると、全国でのサンマの漁獲量はピークを迎える10月で約2万6,000トン。前年同月に比べ4割近く落ち込みました。そのため、市場の取引価格は1キログラム当たり293円と、5年前に比べて5倍近くに跳ね上がりました。
不漁によって価格が高騰する魚がある一方、過去10年で最高の漁獲量を記録しているのがイワシです。
数十年周期で漁獲量が激しく変動する魚として知られていますが、5年前から年々増え続け、今年10月時点で全国での漁獲量は約38万トン。5年前に比べて約3.5倍に増えています。10月の市場取引価格は1キログラム当たり49円と、昨年より1割ほど安くなっています。
価格が両極端の動きをしている、これらの海産物。しかし、その背景には共通する2つの要因がありました。
水温の上昇で離れる魚と近づく魚
1つは、温暖化に伴う海面水温の上昇です。気象庁によると、秋サケが獲れる北海道沿岸の釧路沖と三陸沖では、今年の秋、海面水温の上昇傾向が明瞭に現れているといいます。そのせいで、秋サケが北海道の沿岸に寄りつかなくなっているのです。
その結果、今年の全国での漁獲量は低調だった昨年をさらに下回り、9~10月は前年同期の3割程度となる約2万4,300トン。5年前のおよそ4分の1しかありませんでした。こうした秋サケの漁獲量の減少が、その卵であるイクラの値上がりにつながっています。
その一方、海面水温の上昇が思わぬ収穫をもたらしました。昔は北海道で獲れなかったイワシが、北海道で網にかかり水揚げされているそうです。
水揚げできる漁港の数が増えれば、それにつれて漁獲量も膨らむもの。これが10年前の5倍という豊漁につながりました。本来生息している海域よりも水温の低い北海道沖まで北上してきたためか、今年のイワシは例年より脂が乗って、おいしいそうです。
アジアで急増する生魚の需要
イクラとサンマを値上がりさせている、もう1つの要因がアジアで高まっている生魚の需要です。もともと生魚を食べる習慣がなかった中国や東南アジア諸国が、昨今の和食ブームで寿司や刺身として生魚を食すようになり、生魚の消費が拡大しているといいます。
中でも脂の乗ったサーモンは中国でも人気の食材で、「中国などに競り負けているため、通常なら手に入るはずのロシアなど海外産の秋サケも手に入らない状況が続いている」と市場関係者は話します。
同様にサンマも「成長段階のまだ小さいうちに、中国や台湾に沖獲りされている」(市場関係者)ため、日本の市場に出回るのは痩せたものや小さいものが多くなっているそう。沖獲りは燃料コストが高いため、日本の漁師は積極的にやらないのではないか、と話します。
温暖化に伴う漁場の変化やアジア諸国での需要増は、日本単独ではいかんともしがたい問題。イクラやサンマの高値は今後も続いてしまう可能性が高そうです。当面は、普段より脂が乗って価格も安いイワシがオススメかもしれません。
(文:編集部 土屋舞)