はじめに

皆さんは「景気ウォッチャー調査」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。内閣府が毎月実施している景気動向に関する調査で、ニュースなどでは「街角景気」という言葉で紹介されることも多いので、聞いたことがある方もいるでしょう。

この調査の直近の結果が11月9日に内閣府から発表され、今月の現状判断が52.2ポイントと、3年7ヵ月ぶりの高水準となりました。この状況について、内閣府では「着実に持ち直している」というやや控えめな言葉で評価しています。

でも、この景気ウォッチャー調査は、報告書を読めば読むほど面白い、日本全国の景気に敏感なおじさん、おばさんたちの生々しい声が聞こえてくるような調査なのです。今回の調査も、よく読んでいくと現在の日本全国の「街角の景気」が手に取るように伝わってきます。


異例の“スピード調査”

景気ウォッチャー調査の目的には、「地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々の協力を得て、地域ごとの景気動向を的確かつ迅速に把握」することと書かれています。

このうち「地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々」というのは、タクシー運転手、スーパーの店長、百貨店の売り場主任、観光ホテルスタッフ、コンビニのオーナー、パチンコ店の役員など、まさに私たちが普段、買い物をしたり、食事をしたり、旅行をしたりしている時に知らず知らずにお世話になっている人々、逆にいえば、普段さまざまな人と仕事で接している人々、つまり、景気の良い・悪いを最前線で感じている人々なのです。

また、その月の25日から月末にかけて調査した結果を、翌月の10日頃までに集計し公表しているのも、この種の調査としては異例のスピード集計・スピード公表といえます。

このように、景気ウォッチャー調査は最も景気に敏感な人たちの景気判断を、毎月、すぐに集計して公表している調査なので、調査結果もその時点の出来事をすぐに反映するという特徴があります。

たとえば、過去の動きをみると、2014年の春には、消費税の5%から8%への引き上げに伴う駆け込み需要とその後の消費の落ち込みで、3月の57.9ポイントから4月には41.6ポイントまで、一気に16.3ポイントも景気判断が下落しました。また、2011年の3月には、東日本大震災の影響で、前月比20.7ポイント下落して、27.7ポイントまで景気判断が落ち込みました。

これほど大幅かつ急激な景気判断の変化は、日本銀行短期経済観測(日銀短観)などの他の景気動向調査には見られないもので、景気ウォッチャー調査ならではといえるでしょう。

家計動向は台風や選挙が逆風に

それでは、今回の調査結果はどうみればよいでしょうか。

全体としては前月から0.9ポイント改善した52.2ポイントとなっていますが、内訳を見ると、企業動向関連が前月比4.1ポイント改善の56.4ポイント、雇用関連が同3.3ポイント改善の60.3ポイントに対して、家計動向関連は同0.5ポイント悪化の49.6ポイントと、若干厳しい結果になっています。

家計動向を詳しく見ると、小売関連が49.5ポイント(前月比▲1.2ポイント)、飲食関連が43.8ポイント(同▲6.4ポイント)と前月から悪化しています。

その背景を知るために調査結果と同時に公表されている「景気判断理由集」を見ると、「天候が悪く雨も多いため、来客数は減少している」(北関東・家電量販店)、「客が台風や衆議院選挙前後から減っている」(近畿・旅行代理店店長)といったコメントが書かれています。

「ああ、確かに10月は雨ばかりだったなぁ」とか、「そりゃあ、衆議院選挙で旅行に行けない人もいたよね」という具合に、私たちの実感ともしっくりくるのです。

一方で、家計動向のうちでもサービス関連や住宅関連は前月から改善しています。

コメントを見ると、サービス関連では「富裕層の顧客を中心に高額な冬物アウターが好調」(東北・衣料品専門店)、「外国人観光客の来店が伸びており、それに伴って客単価も上昇傾向」(北海道・百貨店)ということで、富裕層やインバウンドの消費が活発であることがよくわかります。

また、住宅関連も「富裕層を中心として、投資目的の購入も含めた活発な動き」(近畿・その他住宅)によって好調であることがわかります。

ビジネスのヒントが見つかるかも

企業動向に関するコメントでは、「人手不足の影響により省力化を進めようという動きが強まっており、生産効率改善のための設備需要などが増えてきている」(北海道・鋼材卸売)といった声のほか、「原材料の値上がり分の製品価格への転嫁も徐々に進み」(東海・パルプ・神・紙加工品製造業)など、好景気の裏で進む人手不足や価格転嫁の動きが生々しい声として見て取れます。

雇用関連のコメントでは、「人手不足だが人材が集まらない」(北海道・求人情報誌製作会社)、「派遣社員の中にも、正社員を目指したいという理由で契約を更新しないスタッフが徐々に出てきている」(九州・人材派遣会社)など、人材不足を背景として従業員の処遇改善が進んでいることがわかります。

ちなみに、地域別に見ると最も景気がよいのは沖縄で、コメントからはインバウンド客の消費やホテルの稼働率の高さなどが景気を支えていることが読み取れます。

このように、景気ウォッチャー調査は、景気判断理由集を読めば読むほど、日本全国の景気動向が手に取るようにわかる、もしかしたらビジネスのヒントが見つかるかもしれない、とても面白い調査なのです。

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