はじめに

老後の支えやインフレ対策として、配当株への投資に興味を持っている方もいるでしょう。配当投資を実践する際には、銘柄選びが重要となりますが、投資する銘柄はどのように選べばいいのでしょうか?

そこで、X(旧Twitter)フォロワー数14万人で元サラリーマン投資家の長期株式投資(@budoukamail)氏の著書『半オートモードで月に23.5万円が入ってくる「超配当」株投資 日経平均リターンを3.86%上回“割安買い”の極意』(KADOKAWA)より、一部を抜粋・編集して個別銘柄を例に有価証券報告書の確認方法について解説します。


INPEX~「不安定」を逆手にとって儲ける手法は?~

INPEXは、日本株33業種分類では鉱業に属し、エネルギー資源セクターに分類されます。

図4–2をご覧ください。有価証券報告書、その他の資料からデータをピックアップして一覧表にしています。図4–3には、INPEXの有価証券報告書の一部抜粋を掲載してあります。

有価証券報告書からデータを抜き出し、図4–2を作成しているので、どこにどのような情報が記載されているのかを確認しておきましょう。ちなみにデータは、2023年3月末時点で確認できた最新の有価証券報告書の数値となっています。

以降の企業については、ご自身で有価証券報告書にあたってみてください。また、INPEXは2019年に決算月を3月から12月に変更したため、2019年12月期は9ヶ月間決算となっている点に気をつけてください。

それでは、一つひとつ確認していきましょう。

売上高は2020年コロナショックの際には大きく落ち込んでいるものの、そのような特殊要因を除けば右肩上がりとなっており、概ね順調です。

経常利益も売上高の伸びとあわせて伸びていますので、この点も評価できます。

INPEXの利益率は極めて高く、収益力は抜群です。

ただし、資源開発というビジネスの特性上、産油国へロイヤリティ等の支払いが生じるため、最終の純利益は経常利益から大幅に減少することになります。

2020年12月期では経常利益が2,573億円となっていますが、上記のような収益構造のため、1株利益はマイナスになっています。とはいえ、1株利益の推移もコロナショック時を除いて、上昇傾向であることが確認できます。

ただ、利益は原油価格次第という側面もあり、決して安定的ではない点には留意が必要でしょう。

1株当たり配当額は、コロナショックの時に減配となっているものの、増配傾向にあります。

2022年2月に策定された「中期経営計画2022–2024」では、還元方針として、総還元性向40%以上を目途とし、1株当たりの年間配当金の下限を30円に設定しています。

原油価格の下落等で利益が大きく減少した場合には、減配もありうると考えておいた方が無難でしょう。

他方、年間配当金の下限が30円となっていることから、株価が大きく下がるようであれば、この点を念頭に置きながら投資を検討していきたいところです。

コロナショックの際には、エネルギー需要の減退予想から株価が大幅に売り込まれ、500円を割るところまで下落しました。

当時は配当の下限が24円に設定されていたため、500円で投資していれば配当利回りは4.8%になっていたわけです。

2023年12月期の配当予想は64円です。

500円で投資していれば、投資元本に対しての配当利回りは12.8%となっています。

たらればの話となってしまいますが、**このような配当の下限が決まっている銘柄において、配当利回りを確保しつつ業績が回復した時のリターンを狙うという視点は、他のケースでも間違いなく活かせるでしょう。**自己資本比率はやや減少傾向にありますが、直近では下げ止まり、60%台を維持していることから、財務健全性に問題はないと判断してよいと考えます。

ROE(自己資本利益率)は、2020年度までは停滞が続いていましたが、最近では持ち直しつつあります。

業績が原油価格と連動するため、安定的な高いROEを期待するのは難しい業種であると知っておきましょう。

営業活動によるキャッシュ・フローはプラスで推移しており、また、手元キャッシュも事業を継続していく上で問題のない水準にあります。

INPEXは景気敏感株です。

景気と同様に資源価格も循環(スーパーサイクルと呼ばれることもあります)することから、株価や配当に安定を期待することはできませ
ん。したがって、投資指標から単純に買える水準を判断するのは難しい銘柄です。

上記を踏まえ、安全に投資ができるのは、資源価格が崩れて株価が低迷している時か、暴落により相場全体が崩れている時となります。

また、1株ずつ積み上げて取得単価をならしながら投資していくという戦術をとるのも一つの手でしょう。

JT~高い収益力を誇る企業の狙い時は?~

JTは、日本株33業種分類では食料品に属し、食品セクターに分類されます。

利益率は、税引前利益を売上収益で割って算出しますが、JTは20%以上を維持し、極めて高い収益力を誇っていることが確認できます。

1株利益は2018年12月期から2020年12月期まで減少傾向が続きました。

このように1株利益の減少が続くと、株価も下落基調となることが多く、注意が必要です。

配当は、2021年12月期で減配となっていますが、2022年12月期は増配に転じました。増配予想が発表された後には、株価も上昇基調となりました。

表にある5年間で、1株利益は20%程度の下落、配当は10%程度の下落にもかかわらず、株価は半値程度まで下落したこともありました。

株価というのは、長期的には業績にサヤ寄せ(価格差が小さくなること)してくるとはいえ、業績が好調な時には上がりすぎ、業績が低迷している時には下がりすぎる傾向にあることを意識しておきましょう。

無論、狙い目は下がりすぎている時です。

自己資本比率は50%台前後で推移しており、財務健全性には問題はありません。

ROEも高い水準で推移しており、資本効率も問題ないでしょう。

営業活動によるキャッシュ・フローはプラスで推移しており、また、手元キャッシュも潤沢で、事業の継続性に何の問題もありません。

JTは、配当性向75%としており、原則として業績連動型の配当となっていることから、減配可能性も一定程度あると考えておいた方がよいでしょう。

業績連動型の配当政策を採用している場合、単年度で判断するよりも、過去5年程度の平均を今後の期待値として考え、保守的に判断した方が無難だと思います。

たとえば、JTであれば2018年~2022年における配当の平均は、(150円+154円+154円+140円+188円)÷5年=157.2円となります。

この額を、配当の期待値として投資判断をおこなうという発想です。

JTは、2022年10月31日公表の第3四半期決算で、1株配当を188円へ大幅に増配しました。

配当性向75%を厳密に遵守した結果ですが、逆にいえば、業績悪化の際にはシビアに減配してくる可能性もあるということ。

そのような事態になっても狼狽しないよう、事前に減配可能性を踏まえた上で、投資判断をおこなっていきましょう。

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