はじめに

「クルマ離れ」に「お酒離れ」、果ては「外出離れ」まで——。最近、「若者の〇〇離れ」という言葉をよく耳にします。その理由として語られることが多いのは、実質賃金の伸び悩みや年金などの将来不安から、消費に対して慎重になっている、というものです。

でも、それは真実なのでしょうか。ネット通販大手の楽天が自社の検索データや購買データ、SNSなどの消費者動向を分析し、毎年公表している「楽天市場ヒット番付」を読み解くと、通説とは少し異なる若者の消費実態が見えてきました。


進化する「インスタ映え」消費

楽天が11月28日に公表した、今年の「楽天市場ヒット番付」。横綱から期待株まで、東西12の番付は下表のような結果となりました。

番付西
ゆとり世代のタイムライン消費横綱アラフォー世代のアルバム消費
天才キッズ特需大関シニアの軽量需要
平日ナイトオフ関脇週末ナイトアウト
ずぼらハンドメイド小結お手軽ロカボ
あえて〇〇売れ前頭ワンタイム消費
季節逆転アイテム期待株男女逆転アイテム

この中でも注目は、東の横綱に選ばれた「ゆとり世代のタイムライン消費」です。これは、TwitterやFacebookなどSNSのタイムラインに流れた情報から、自分の好みに合った商品やサービスをすくい取る、20代を中心とした消費動向を指すそうです。

たとえば、黄色いスカート。楽天市場での売上額は前年の3.18倍になったといいます。背景にあるのは、今年日本で公開された『ラ・ラ・ランド』『美女と野獣』という2本のハリウッド映画。どちらの作品でもヒロインが黄色いスカートをはいていたことから、黄色いスカートの自撮り画像をSNSにアップするのがブームとなり、20代の女性を中心に売り上げが膨らみました。

ほかにも、防腐処理を施した植物をガラス瓶の中に入れて鑑賞する「ハーバリウム」(売上額は前年比2,110倍)や、電球型の容器に色鮮やかなドリンクを入れた「電球ソーダ」(同20.9倍)など、インスタグラムをはじめとしたSNSに投稿すれば見栄えのする商品が、大きく売り上げを伸ばしました。

「ゆとり世代は消費意欲がないといわれていますが、分析してみると消費意欲は滅茶苦茶あります。むしろ、SNSを活用した新しい消費形態を生み出しているといえるでしょう」(楽天・ECカンパニーの清水淳トレンドハンター)

盛り上がりは「ゆとり世代」だけではない

20代のSNS消費と同じ「横綱」にランク付けされたのが「アラフォー世代のアルバム消費」です。こちらは、懐かしいアルバムをめくるのと同様に、30~40代が青春時代を呼び起こす“記憶再生装置”として機能している消費形態を指すとのこと。

たとえば、1995年に発売されたナイキの「エアマックス95」や、1990年代にブームを巻き起こしたカシオ計算機の「G-SHOCK」などのリバイバル商品がこれに該当します。ゆとり世代が現在進行形のタイムラインに影響を受けているのに対し、アラフォー世代は自分の過去のタイムライン(年表)を懐かしむことにお金を使っているようです。

消費意欲が高いのは、この2つの世代だけではありません。「大関」にランクインした「キッズ」と「シニア」も消費意欲は高いと清水さんは指摘します。

キッズ層では、将棋の藤井聡太四段の活躍などにより、わが子を天才キッズに育てたいというニーズが強まり、知育玩具(売上額は前年比1.4倍)や将棋(同2.58倍)、立体パズルなどが売れました。

一方、シニア層では、軽いメガネ(同1.59倍)や軽量シューズ(同1.42倍)といった「生活する中で重く感じているところを改善する消費が流行している」(清水さん)ようです。

ライフスタイル変化消費が台頭

このように、世代間で消費傾向が大きく異なっているのが今年の特徴だといえます。もう1つ、特徴として目立ったのが、ライフスタイルの変化に伴う消費です。

2017年は「働き方改革」が声高に叫ばれ、プレミアムフライデーの導入や残業時間の削減推進などによって、時間の使い方に変化が起きた年でした。そうした中で、時間に関する消費動向が脚光を浴びました。

「関脇」にランク付けされたものが、まさにそれに該当します。平日の夜には、資格や英語の勉強のための消費のほか、体と心を癒すお風呂関連商品やアロマ系商品の需要が伸びたといいます。また、休日の夜にナイトプールやグランピングで使うための浮き輪や防水カメラなどの売れ行きが良かったそうです。

「小結」に入った2つの「お手軽消費」も、時間関連の消費動向。時間に余裕のできた人がハンドメイドの趣味を始めたり、逆に時間のない人が手軽に糖質制限できる食品を購入したり、といった傾向が出ているようです。

消費者の“体験”をくすぐれ

一見するとバラバラに映る、これらの消費トレンド。しかし、清水さんは「共通している部分がある」と言います。それは、消費者のニーズがどこにあるのか、きちんとつかんでいること。そのうえで、「今の時代は消費者の“体験”をくすぐる商品を出せれば、売れる」と豪語します。

つまり、若者が何かの消費から離れているとすれば、それは彼らのニーズを十分にとらえることができていないだけなのかもしれません。「若者の〇〇離れ」を嘆く前に、彼らが何に憧れ、何を求めているのか、SNSから探り出すことが、需要回復の近道になるのではないでしょうか。

ちなみに、清水さんによれば、2018年の消費のキーワードは「逆転」になるとのこと。「冬のマンゴー」「冬の水着」といった季節逆転アイテムや、メンズ化粧品などの男女逆転アイテムが注目だそうです。今年苦戦した業界は、こうした傾向をとらえて、来年こそ逆転ホームランを打つことができるでしょうか。

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