はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
妻の両親が東京に土地を持っており、その土地を私たちに譲ってくれるという話をもらっています。相談した結果、1,000万円程度(それでも従来の土地価格の半額かそれ以下です)をこちらが支払おうと思っています。今回、無償ではなく有償になったのは、義理の両親も多少のお金が必要だからです。ただ、私も今すぐ1,000万円すべてを用意できないため銀行から借りる必要があるのですが、3つ気になっていることがあります。
1:そもそも義理の父の土地を購入する目的でローンを組むことができるのか
2:本来の価格よりも安い値段で自身が保有する土地を娘の夫に売ることができるのか
3:贈与税・相続税などの諸税金はどれくらい発生するのか
上記3点について、可否や詳細を教えていただけますでしょうか。
またこれが困難であった場合、義理の親の土地を本来よりも安い価格、かつ税金を抑えたかたちで売買する方法や、いったん土地を借りて住居を建ててから、徐々に土地の贈与を行うことが可能なのかなど教えていただきたいです。よろしくお願いします。
(30代前半 既婚・子供1人 男性)
野瀬: 団塊世代が60代半ばを超えた昨今、実はこの手のご相談は非常にたくさん寄せられています。
最も多いのは「親の土地に家を建てる場合の税務・法律関係」ですが、今回のように「親から有償で不動産を買いたい」というご相談もたまにあります。ただ、パッと考えても、これは少し不思議な話になるわけです。
親の土地を「有償で」買うという行為
お子さんがいる以上、ご両親が亡くなられた場合には自動的に相続が発生しますが、その際には法改正で小さくなったとはいえ基礎控除の枠があるため、よほどの富裕層でもなければ相続税の負担は重たくなりません。
また、生前に親の土地に家を建てるのであれば、税務上、その土地の使用料を払わなくても問題ありません。
そのため、「親の土地を自身の住宅用に使いたい」のであれば最も合理的なのは、親の土地を無償で利用し、建物を住宅ローンを組んで建て、相続を待つ……というかたちです。
逆にいうと、相続を待たずに親から不動産を買うという行為は税務上あまりメリットがない――それゆえに不思議な話――となるわけです。
「両親の老後資金のため」という方が最近は増えているので、老後の不安が大きい高齢者が増えてきたのかもしれませんね。
1:親からの不動産購入でローンは組めるのか?
結論からいうと難しいと思います。不可能ではないのですが、敬遠する銀行が多いからです。
親子間の売買の場合、時価からかけ離れた価格での取引になることが多く、不動産会社を仲介させないこともよくあるため、取引が不透明になるからです。
逆にいうと、対応してくれる銀行がないわけではないので、駄目元でトライしてもよいとは思います。ただし、その場合は多少の手数料は我慢して、きちんと不動産業者を通して売買契約書を交わすことを求められる可能性が高いです。
2:相場より安い価格での売買は可能か?
これは可能ですが、後述の税金がかかります。
3:贈与税・相続税はどれくらい発生するのか?
生前の贈与となるため、この場合は相場より安く購入して得した分に対して贈与税がかかることになります。
ご存知のように「1年に110万円以下の贈与」であれば贈与税はかかりませんが、質問者の方の場合、明らかに110万円を超えるため贈与税がかかります。
具体的には「半額かそれ以上」とありましたので、仮に市場の時価が2,500万円だとすると差額1,500万円に対して贈与税がかかります(相続税評価額を使うと、もう少し小さくなりますが……)。「(1,500万円-110万)×50%-225万円=470万円」となり、なかなか無視できない額の贈与税がかかることになります。
ほかに考えられる方法は?
贈与税が数百万になる以上、この方法は避けたくなりますよね。
相続時精算課税という制度を使う方法もありますが、その場合、義理のご両親にお金が入らないので駄目かと思います。
ほかに考えられる方法は、不動産以外の相続財産の有無(現金や株式の有無及びその金額)や義理のご両親がお金を必要とする理由にもよりますので少し難しいですね。
たとえば、考えられるのは以下の方法です。
(1)土地の利用+扶養に入れる
これは、不動産以外の相続財産が少ない場合に有効なのですが、土地に関して親から無償で借りるというケースです。
前述したよくあるケースと同様に、義理のご両親の土地に家を建てて住宅ローンを組みます。そしてご両親の心配が「老後資金」なのであれば、ご両親を扶養に入れて、生活の面倒を見てあげるとよいかと思います。
ご両親の年金が国民年金のみの場合、扶養の条件はクリアできるでしょう。ご自身の所得税の計算上も扶養控除を得ることができますので、税金は軽くなります。
相続財産は少ないと予測すれば、このような方法も考えられます。ご両親が亡くなられた場合は、通常の相続手続きをして、相続税の基礎控除内に収まって相続税はゼロというイメージです。
(2)土地を細分化して贈与する
「(1,500万-110万)×税率」の場合、計算したように贈与税が470万円と高くなるので、土地を分筆し細分化することで税金を安くする方法です。
本音としては110万ずつに細分化して贈与税をゼロしたいところですが、分筆&名義変更にも手数料がかかるため、あまりにも細かい細分化はおすすめできません。
たとえば、3年に渡り3つに細分化することで、毎年の贈与税を「(500万-110万)×20%-25万=53万」「53万×3回=159万円」と大きく減らすことはできます。
当然、名義変更などに手数料はかかりますが、トータルで470万円もの負担がかかることはありません。
手間暇との兼ね合いにはなりますが、税額が減ることには違いないため、相続財産が多い場合などはこちらを検討してみるとよいでしょう。