はじめに

基準価額の高低で割高・割安は判断できない

なぜ、この基準価額の高低が、割高・割安を意味するものではないのかを考えてみましょう。

たとえば株式の割高・割安は、その企業の本質的な価値に対して、株価が割高に評価されているのか、割安に評価されているのかを示します。企業の本質的価値は、さまざまな議論はありますが、基本的には利益と純資産です。そのため、1株利益に対して株価の割高・割安を見るPERと、1株純資産に対して株価の割高・割安を見るPBRが、代表的な株価指標として重宝されているのです。

そして、株価が大きく値上がりして、こうした本質的価値に対して高く評価されていると思われる時には「割高」と表現されますし、株価が大きく値下がりして、本質的価値に対して安く評価されていると思われる時には「割安」と表現されます。

しかし、投資信託の基準価額には、割高・割安を評価する対象が存在しません。前述したように、株式なら利益や純資産を本質的な価値として、それに比べて今の株価水準が割高なのか、割安なのかを評価できますが、投資信託には本質的価値を示す数字が存在しないため、基準価額の高低だけで、割高・割安を評価することができないのです。

基準価額が高くてもポートフォリオは割安

別な表現をしてみましょう。たとえば「日本バリュー株ファンド」という投資信託があるとします。ファンド名で察しがつくように、この投資信託は日本株のなかでもバリュー株、つまり割安株を組み入れて運用する投資信託です。

仮に、バリュー株が買われる相場環境のもと、この投資信託に組み入れられている銘柄の株価が値上がりし、1万口あたりの基準価額が1万8000円になったとしましょう。運用開始時の1万口あたりの基準価額は1万円です。

では、この投資信託の現在の基準価額は、運用開始時の1万円に比べて8000円も高いから割高と言えるでしょうか。

基本的にバリュー株投資を運用方針に掲げている以上、ポートフォリオには割安株を組み入れなければなりません。そのため組入銘柄の株価が値上がりして、その企業の本質的価値に対して株価が割高であると運用担当者が判断すれば、割高な銘柄をポートフォリオから外し、新たに割安な銘柄を組み入れます。

このように運用担当者は、銘柄の入れ替えをしながら、常にポートフォリオが割安な銘柄で構成されるようにコントロールしていますから、基準価額が1万8000円であろうと、逆に8000円であろうと、基本的にポートフォリオが持つ本質的な価値は、割安であると考えられます。

以前、ある運用者が、「運用成績が良く、基準価額が2万円、3万円と値上がりするのは良いのだけど、資金流入がどんどん細ってしまう」と嘆いていました。理由は、1万円よりも2万円、2万円よりも3万円の方が、割高だと誤解している人が多いからだと考えられます。

基準価額が大きく値上がりしている投資信託は、決して割高なのではなく、あくまでも過去の運用で得た収益が蓄積されている結果です。「割高だから買えない」などと敬遠する必要は、一切ないのです。

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