はじめに

複数の指標を織り交ぜて大底のタイミングを計る!

では、ショック安相場における「大底」の目安になる指標はあるのでしょうか。ショック安といっても中身はさまざまで、その当時の経済状況や下落幅、下落期間などがバラバラなので、残念ながら「この指標だけを見ていれば底を見分けられる」という指標はありません。しかし、複数の指標をチェックすることで、「そろそろ相場が底打ちするかも」という“雰囲気”を感じ取ることは可能です。

以下に、いくつかそうした目安になりうる指標を紹介しておきましょう。

①日経平均株価全体のPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)
②信用取引の評価損益率
③VIX指数
④移動平均線からの下方乖離率
⑤各種テクニカル指標(RSIやボリンジャーバンドなど)

①の「日経平均全体のPER・PBR」から見ていきましょう。PERは、株価を1株当たり利益で割って算出される、株式投資の基本といえる指標。基本的には個別銘柄について、同業他社や同じセクターの企業と比較した際に割安や割高を計るための指標ですが、相場全体や日経平均採用の225銘柄でも算出することが可能。PBRについても同様です。

PERは、日本企業の利益が増えればPERの水準は下がりますし、逆に利益が減れば水準は上がります。過去の「日経平均株価のPER」の推移を見ると、おおむね12倍台半ば~15倍台程度の範囲内。ただ、80年代後半のバブル時の日経平均PERは60倍程度、ITバブル時は70倍程度まで上昇しました。一方、リーマンショック直後は9倍台、コロナショック時は10.8倍台まで下がっています。このように、“瞬間風速”では上下に大きくブレる指標ではありますが、相場が落ち着けば、おおむね先ほどの12~15という水準に回帰する傾向があります。ちなみに、植田ショック時のPERは13倍台でした。

もう一つの「日経平均のPBR」は、リーマンショック時、コロナショック時とも、0.8倍台で下げ止まっています。今回の「植田ショック」では、日経平均のPBRは1.15倍から反騰しており、PBRの観点から考えると、日経平均は「まだ下値リスクがあった」と見ることができます。日経平均のPERとPBRでは、日経平均PERの11倍割れ、PBRの0.9倍割れあたりで、「そろそろ大底が近そう」と判断することができるでしょう。

②の「信用取引の評価損益率」とは、信用取引で株を売買している人の損益の割合のこと。基本的にはマイナス(損失を抱えている状態)状態の指標で、日本経済新聞社が毎週の第3営業日に公表しています。一般的には、この指標が「マイナス20%」を割り込むと底が近く、0%に近付くと天井が近いとされますが、リーマンショック時には最大でマイナス40%近くまで、コロナショック時にはマイナス30%超まで悪化しました。この点で、「ショック安」ではマイナス30%、あるいはここからさらに悪化した段階で、相場の転換点が近付いていると考えることができるでしょう。

③のVIX指数は米シカゴの取引所が算出している米S&P500種指数のオプション取引に関連する指標で、「ボラティリティインデックス」の略。別名「恐怖指数」とも呼ばれ、相場の先行きに対する投資家の不安が高まれば上がり、落ち着けば下がります。リーマンショック時には、一時VIX指数が96ポイント台、コロナショック時には85ポイントまで上がりました(今回の植田ショック時は65ポイントまで上昇)。40ポイントが1つの節目とされており、ここを上回ると、相場は「ショック状態」に陥っていて、乱高下しやすい状況にあると言えるでしょう。今回の植田ショックでは、VIX指数が65ポイントまで急上昇した後、数日で20ポイントまで下がったことで、「ひとまずパニック状態からは抜け出した」と考えることができます。「VIX指数」で検索すれば、すぐに調べることが可能です。

④と⑤について詳細は割愛しますが、いわゆる「テクニカル分析」と呼ばれる分析手法です。たとえば、RSI(アールエスアイ)という相場の「売られ過ぎ・買われ過ぎ」を見る指標では、月足ベースで見た場合、2000年以降で20%を割り込んだのは5回のみ。多くは40%を割り込んだ時点で、相場は反転しています。「移動平均線からの下方乖離」については、株価の時価が13週、26週などの中期移動平均線から大きく下離れした際、率の大きさで相場の底を探る手法です。

もっとも、これはテクニカル分析全般についていえることですが、テクニカル分析は「過去の値動きのデータから読み取れる傾向」であり、「これからも同じような動きになる」とは断言できません。とはいえ、「過去、相場がどの時点で下げ止まったのか」を見ることで、「もしかしたら今回も同じポイントで下げ止まるかも」と考えることはできます。短期間のテクニカル分析については、今回の「植田ショック」のような暴落局面では当てにならないケースが少なくありませんが、長期のものであれば、過去の水準と照らし合わせることで、大まかな底打ちのタイミングを計ることができるでしょう。

ここで取り上げた数々の指標やデータを、1点だけで売買するのはハイリスクです。しかし、複数を織り交ぜれば、相場の下落が続く中で「勇気ある一歩」を踏み出すための判断基準になることは間違いありません。常に意識しておく必要はありませんが、相場がショック状態に陥った時、パニックにならず、まずは落ち着いてこれらの指標をチェックしてみるべきです。

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