はじめに
年金は繰上げて早くもらった方が得なのでは?という話はよく耳にします。実際に私の周りでも、繰上げ受給をしている人が何人もいます。では、いったいどのくらいの人が繰上げ受給をしているのでしょうか?
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況 (令和4年)」によると、2022年に国民年金を繰上げ受給している人は、約26%の160万人ほどです。また、厚生年金を繰り上げている人は約0.7%の約21万人です。
それに対して、国民年金を繰下げしている人は、約2%の12万人で、厚生年金を繰り下げている人は、約1.3%の約37万人です。年金の繰上げ受給と繰下げ受給とでは、繰上げ受給をしている人の方が圧倒的に多いことがわかります。
では、年金の繰上げ受給は正解なのでしょうか?
年金の繰上げ受給は減額になり、それが生涯続く
年金は、通常65歳から支給開始ですが、60歳から75歳の間ならばいつでも受け取ることができます。60歳から65歳の間に受け取るのを「繰上げ受給」といいます。66歳から75歳までの間に受け取るのを「繰下げ受給」といいます。
しかし、繰上げ受給をすると年金が年4.8%の減額になり、60歳から受給すると24%の減額になるのです。たとえば、65歳で年金が年額200万円の人は、60歳から受け取ると152万円です。
しかも、この減額された年金額が一生続くことになります。一方、繰下げ受給すると年金は、年8.4%増額されます。70歳まで繰り下げると42%の増額、75歳まで繰り下げると84%の増額になります。繰り下げて増額になった年金額は一生続くことになります。
60歳受給開始と70歳受給開始の差は、約1000万円
繰上げ受給をすると、年金を早く受け取ることができるので、最初の方は得になります。どのくらい得になるのか比べてみましょう。65歳の年金額が200万円だとしたら、60歳では152万円です。
80歳までの受取総額→60歳受給開始:3040万円 65歳受給開始:3000万円
90歳までの受取総額→60歳受給開始:4560万円 65歳受給開始:5000万円
60歳受給開始と65歳受給開始とでは、80歳でほぼ同じくらいです。81歳を越えると65歳から受給開始した総額の方が多くなります。それ以降は、ずっと引き離されます。90歳になったときには約500万円近い差がでます。
厚生労働省「令和5年簡易生命表」によると、2023(令和5)年の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳です。また、60歳からの平均余命は男性23.68年、女性28.91年です。
つまり、平均して男性は約84歳、女性の半数は約89歳まで生きるということです。こう考えると、長寿時代ですので、繰上げ受給するのが、必ずしも得ではないことがわかります。
同じく年金額が65歳で200万円の人が70歳から受給開始をすると、70歳での年金額は284万円になり、90歳での受取総額は5680万円になります。すると、60歳受給開始と70歳受給開始では、90歳のときには、総額で約1000万円の差がつくことになります。