はじめに

住宅ローンの繰上返済について、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

「早く返済すれば利息が減るからお得」「ローンは早めに返済した方が良い」といった声をよく耳にします。確かに、繰上返済には多くのメリットがありますが、一方で見落としがちなデメリットもあります。繰上返済をすることでたしかに支払う利息は減るかもしれませんが、その資金を手元に残して運用するなど他の選択肢もあることを忘れてはいけません。

住宅ローンの繰上返済について、そのメリットとデメリット、そして繰上返済を考えた時に検討すべき、ほかの選択肢についてもご紹介します。


繰上返済だけではない余剰資金の使い道

繰上返済とは、毎月の返済とは別に、住宅ローンの元金の一部または全額を予定よりも早く返済することです。繰上返済をすると、元金が減った分の支払利息を削減することができるため総支払額を減らすことができますが、余剰資金の使い道としてそれが常にベストな選択肢とは限りません。以下のような場合は繰上返済よりも他の選択肢を検討する価値があります。

・緊急時の資金が十分に確保できていない場合
・老後の資金準備が不十分な場合
・子どもの教育費など、将来の大きな支出が控えている場合
・現在利用している住宅ローンの金利が高い場合

住宅は人生最大の買い物といわれますが、住宅ローンの返済方法も人生設計に大きな影響を与えます。「とりあえず繰上返済」ではなく、自分にとって本当に最適な方法は何かをじっくり考えてみましょう。

繰上返済のメリットとデメリット

まず、繰上返済のメリットとデメリットについて解説します。

■メリット

1.総支払額の削減
繰上返済の最大のメリットは、総支払額の削減です。住宅ローンは金額が大きく、長期間にわたる返済となるため、大きな金額となって跳ね返ってきます。

例えば、5,000万円を金利0.5%で40年借りた場合、総支払額は約5,518万円になります。このローンを返済開始10年後の時点で5年分・約601万円繰上返済すると、総支払額は約5,429万円となり、約89万円分の利息を節約できるのです。

2.早期完済による心理的負担の軽減
繰上返済を行いローンが完済となった場合、「ローンがある」という重荷から解放されることで、精神的にも楽になります。キャリアの選択においてリスクを取りやすくなったり、将来のために資産運用に積極的にチャレンジしやすくなったり、新たな人生の選択肢が広がる可能性があります。

■デメリット

1.手元資金の減少
繰上返済によって一時的に手元の資金が減ってしまいます。一度返済に充てたお金は手元に戻せないため、預貯金から一気に繰上返済を行うと、その後大きな支出が発生した場合に生活が圧迫されてしまう恐れがあります。

例えば、繰上返済後に突然の失業や病気などで収入が減少した場合、生活資金が不足する可能性があります。また、子どもの教育費や老後の資金など、将来の大きな支出に備える資金が減ってしまう可能性もあります。

2.住宅ローン控除額の減少
住宅ローン控除期間中の繰上返済には要注意です。繰上返済によってローン残高が減ると、住宅ローン控除の控除額が減ってしまう可能性があるからです。年末時点のローン残高を基準として住宅ローン控除額が計算されるため、繰上返済によってローン残高が減ってしまうと、結果として税負担が大きくなってしまうケースもある点に留意しましょう。

特に借入金利が低い場合は繰上返済をしない方がメリットが大きい場合があるため、繰上返済のタイミングには注意が必要です。

3.金利が低い場合の効果の薄さ
現在の低金利環境下では、繰上返済による利息軽減効果は小さくなります。また、物価が上昇するインフレ下では、繰上返済の実質的な効果が薄れます。物価の上昇率よりローン金利が低いという状況は借り手に有利な状況であるため、繰上返済は見送るという考え方もできます。

日本のインフレ率を表す代表的な指標として認知されているコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)は2024年1月〜11月のデータによると前年同月比2%以上で推移しています。インフレ下においては、繰上返済よりも他の選択肢を検討する価値があるかもしれません。

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