はじめに
警察庁が毎年、この時期に発表している「生活経済事犯の検挙状況等」の令和6年版が発表されました。このうち、資産運用と関係の深い「利殖勧誘事犯」の2024年中における被害額は、前年比41%増の1776億215万円になりました。データから読み取れる今回の特色、具体的な犯罪の内容について解説します。
検挙事件数は増加
数字はあくまでも検挙された事件の件数、被害額になるため、これから被害が表面化する事案があることを踏まえると、利殖勧誘事犯の犯罪規模は、ここに示されている数字に比べてはるかに規模が大きくなると推察されます。それを前提で、2024年中に検挙された利殖勧誘事犯の内容について見ていきましょう。
まず利殖勧誘事犯といっても、どのような詐欺的商品で騙されたのかという類型別の被害額を列挙すると、以下のようになります。
・集団投資スキーム(ファンド)・・・・・・228億7262万円(327億6687万円)
・デリバティブ取引・・・・・・1379億8989万円(4億9777万円)
・上記以外の預り金・・・・・・52億4292万円(63億9589万円)
・その他・・・・・・111億8871万円(755億9385万円)
※カッコ内の金額は2023年の被害額
ちなみに上記累計のうち、デリバティブ取引に含まれるものは、商品先物取引、FX、暗号資産、バイナリーオプション、CO2排出権取引などが中心になります。また、「上記以外の預り金」は、勧誘時に「元本保証」をうたったことで出資法第2条にいう預り金に該当する事犯で、商材が未公開株式や公社債、集団投資スキーム、デリバティブ取引に該当しないもののすべてです。そして、「その他」は上記に該当しないものを対象とします。
被害額のうちカッコ内の数字は2023年のもので、この1年間で、どれが増えて減ったのかを把握するための参考値として記しました。全体の被害額にいえることですが、年内にひとつ大きな被害の事犯があれば、それだけで数字は急に跳ね上がったり、何も無ければ急減したりします。
検挙された被害額が増えているのは、それだけ検挙数が増えていることを意味する面もあるので、一概に悪い話だと断じることはできません。実際、検挙事件数の推移を過去10年で見ると、2016年以降はほぼ横ばいだったのが、2024年は頭一つ抜けて増えています。
50歳代以下の相談受理件数が62.3%
利殖勧誘事犯に関して、警察に持ち込まれた相談受理件数は、2020年の1806件から見て、年を追うごとに増加しています。2021年は3109件に急増し、2022年は2584件まで減ったものの、2023年は3155件に増加し、2024年は3310件へとさらに増加しています。
相談受理件数には、検挙される前の段階での数字も含まれているので、この数字が傾向的に増えているとしたら、事件化していないものも含めて、全体的に利殖勧誘事犯が増えているかも知れないと推察することはできます。その意味では、やはりここ数年、利殖勧誘事犯の件数は、被害が表面化していないものも含めて規模が拡大している恐れがあります。
また、相談受理件数で注目したいデータは、年齢階層別の件数です。
2016年は60歳以上の相談受理件数が66.9%を占めていました。「高齢者は被害に遭いやすい」といわれるので、「まあそうなんだな」という印象ですが、徐々に高齢者の相談受理件数は減少傾向をたどり、2024年は33.8%でした。
一方で増えているのが現役世代の相談受理件数です。2016年時点では、40歳代以下の相談受理件数は16.1%、40歳代を含む50歳代以下の相談受理件数は25.6%でしたが、2024年においては、それぞれ40.2%、62.3%へと増加しています。
現役世代の相談受理件数が最も高かったのは2021年で、40歳代以下が55.8%、40歳代以下を含む50歳代以下が72.4%でしたから、それと比べれば、この3年で現役世代の相談受理件数は低下しています。
とはいえ、2024年時点でも40歳代と50歳代の比率は38.5%ですから、この世代は相当、狙われていると考えるのが自然でしょう。SNSを介した勧誘に触れる機会が多く、老後の経済不安に最も神経質な世代というのが、数字の増加につながっているのかも知れません。