はじめに
米ドル安が進んでいます。年初の米ドル/円は、1米ドル=158円台でしたから、その時点で外貨建て資産に投資した人は、為替差損を被っているはずです。為替リスクとの付き合い方を考えてみましょう。
円高が外貨建て商品のリターンに及ぼす影響
円高が進むと、外貨建て資産は為替差損を被ることになります。基準価額が円建て表示されている国内籍投資信託であったとしても、海外株式、海外債券などの外貨建て資産を組み入れていれば、例外なく為替リスクにさらされます。
たとえば「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の基準価額の変動要因を見てみましょう。この数字は同ファンドの月報に記載されているので、チェックしてみて下さい。
米ドル/円の推移を見ると、2025年1月10日時点では1米ドル=158.87円という米ドル高水準がありました。それが直近の米ドル高値であり、そこから3カ月余り米ドル安が続いています。4月16日時点では、1米ドル=142円台をつけました。この間にざっと10.6%ほど、米ドル安が進んだことになります。
では、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の基準価額の変動を、株式要因と為替要因に分けて見てみましょう。最新の月報に記載されている数字は、2024年12月末から2025年3月末までのものですが、基準価額ならびに株式要因と為替要因の変動は、以下のようになります。
基準価額・・・・・・▲3902円
株式要因・・・・・・▲1998円
為替要因・・・・・・▲1899円
その他(信託報酬等)・・・・・・▲4円
上記数字のうち「その他」は無視していただいて構いません。2025年に入って3月末まで、同ファンドの基準価額は3902円のマイナスでした。要因に分けてみると、為替要因で生じている損失が、株式要因とほぼ同じ額になっています。案外、為替変動の影響は大きいものなのだということが、お分かりいただけるでしょう。
ヘッジコストに注意
これだけ為替変動の影響が大きいと、なかには「だったら為替ヘッジのあるものに投資すればいいのでは」という声も聞こえてきます。
為替ヘッジとは、先物予約などを用いて、一定期間後に外貨を売却する際の為替レートを、現時点で決めてしまう取引のことです。これを用いれば、一定期間後にどれだけ円高が進もうと、事前に取り決めた為替レートで、外貨を売ることができます。
ただ、為替ヘッジにはひとつだけ問題があります。それは一定期間後に外貨を売るという取引を行うに際して、外貨の金利が円金利よりも高い場合は、ヘッジコストという費用を負担しなければならないことです。
たとえば1年先に米ドルを売る際のレートを現時点で決めるにあたり、米国の金利が5%、日本の金利が1%だとすると、4%のコストを負担しなければならないのです。
このコストは1年後に米ドルを売る際の為替レートに反映されるため、この先物取引が成立した時点で、1年後に米ドルを売る際の為替レートは、現在のそれに比べて4%相当、円高水準で確定されます。
このヘッジコストが一時期、大きく跳ね上がりました。日本がゼロ金利政策を続けている間、米国の金利が大きく上昇したからです。2023年には一時的に、米ドル円のヘッジコストが、3カ月間の先物予約で6%を超えたこともありました。
外貨預金の利率は高いけれども、為替リスクが怖いと思っている人が、為替ヘッジを行って外貨預金に預けたとしても、金利差分がヘッジコストとして差し引かれてしまうため、結局のところ、日本の預金に預けたのとほぼ同じリターンしか得られないのです。