はじめに

日本企業が親子上場関係を解消する動きが活発化している事をご存知でしょうか?

5月にトヨタ自動車の源流企業である豊田自動織機の株式非公開化構想を巡り、トヨタグループが11月にも豊田織機に対し株式公開買い付け(TOB)を実施する計画が明らかになりました。買収総額は6兆円超にのぼるとの報道もあります。

また、NTTは5月8日、上場子会社のNTTデータグループを完全子会社化すると発表しました。買い付け価格は1株4000円と、7日終値に34%のプレミアム(上乗せ幅)を乗せました。三菱商事は、三菱食品をTOBで完全子会社化し、食品流通事業を強化する方針です。エア・ウォーターは、医療材料を手がける川本産業を完全子会社化するためTOBを実施しました。その他、イオンがイオンディライトのTOBを実施、イオンモールを株式交換による完全子会社化に向けた協議を開始する旨の基本合意書を締結しました。イオンはこの2社を含めて15社の上場子会社を持っています。

2025年に入り、上記以外でも親子上場のTOBや解消が進んでいます。親子上場関係を解消する動きが活発化する背景を今回はお伝えします。


親子上場が活発化している理由その1

親子上場とは、親会社と子会社がともに株式を上場している形態を指します。親会社が子会社の過半数の株式を保有しているのが一般的ですが、必ずしも過半数である必要はありません。日本で親子上場が多く見られる背景には、企業グループの資本効率を高めるための戦略や資金調達の多様化が挙げられます。しかし、利益相反のリスクや親子それぞれが上場維持コストを負担するため、他の上場企業よりもコストが増加する可能性があるというデメリットがあります。

東京証券取引所は2025年2月、「親子上場等に関する投資者の目線」の公表についてと題したリポートを公表し、現状のグループ経営や少数株主保護に関する取組みや開示について、投資者からは「依然として大部分の事例で、親子上場の形態をとる意義について、投資者の目線を踏まえた検討が行われていない」、「投資者が期待する開示内容とギャップが生じている」など取り組みはなお不十分と指摘しています。

また、東証が進める「資本コストや株価を意識した経営の実現」の要請も踏まえ、中長期的な企業価値向上の実現に向けた経営資源の適切な配分の観点からも、親子上場の在り方に関する検討や開示のニーズがますます高まっていると説明しています。こうした東証の動きが親子上場の動きを活発化している1つの理由に挙げられます。

親子上場が活発化している理由その2

もう一つはアクティビスト(物言う株主)の存在です。 2024年5月、英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズは、豊田自動織機と、豊田自動織機の上場子会社アイチコーポレーションに親子上場の解消を求めました。また、豊田自動織機は仏ファンドのロンシャン・SICAVから2025年4月に、資本コストや株価を意識した経営の実現、取締役会の過半数を社外取締役とすること、取締役の報酬を譲渡制限付き株式により増額することなどの株主提案を受けました。そうしたことを踏まえ、非上場化で株主の圧力から逃れ、グループ全体の経営安定化につなげる狙いが背景にあります。

塩野義製薬は、JTの子会社である鳥居薬品をTOBにより完全子会社にするほか、JT本体の医薬事業も譲り受ける事を公表しました。買収総額は1600億円規模としています。鳥居薬品にも、以前から香港のアクティビストであるリムジャパンイベントマスターファンドが、PBR1倍割れを問題視し、JTと鳥居薬品との親子上場の解消や医薬事業全体の売却などの株主提案を行った経緯がありました。

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