はじめに

年収1億円という高所得者層は、多くの人にとって成功と豊かさの象徴かもしれません。収入が多い分、税金や社会保険料の負担も小さくないのが現実です。「年収が高く多くの負担をしているのだから、将来受け取れる年金も多いはず」と想像されるのではないでしょうか。しかし、日本の公的年金制度は、必ずしも収入の高さがそのまま将来の年金額に直結するわけではありません。実は、制度には一定の「上限」が設けられており、年収1億円という高所得の方であっても、期待するほどの年金額にはならないケースがほとんどなのです。

この記事では、年収1億円の人が将来受け取れる年金額を具体的に考察し、公的年金制度のポイントと、豊かな老後を迎えるための準備について解説します。


将来受け取れる年金額には限界がある

「多く保険料を納めれば、将来の年金も増える」というイメージをお持ちでしょう。基本的にはその通りですが、会社員などが加入する厚生年金には、保険料計算の基となる収入(給与や賞与)に上限があります。この点が、年収1億円の方でも年金額が収入に比例して増えない主な理由です。

日本の公的年金制度は、全員が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」の2階建てです。国民年金の保険料は一律で、納付期間に応じて老齢基礎年金が決まります。

一方、厚生年金の保険料は、毎月の給与に応じた「標準報酬月額」と賞与に応じた「標準賞与額」に保険料率(2025年5月現在18.3%、労使折半)を掛けて計算されます。この「標準報酬月額」と「標準賞与額」に上限があるのです。

1. 標準報酬月額の上限
2025年5月現在、最高等級は32等級の65万円。月給がこれを超えても、例えば年収1億円(月収約833万円)の方でも、保険料計算上は「月収65万円」として扱われます。

2. 標準賞与額の上限
1回の支給につき150万円。年3回までが対象となります。高額な賞与でも、保険料計算の対象はこの上限までです。

なぜ上限があるのでしょうか? これは、「高額所得者および事業主の保険料負担に対する配慮および保険料給付額の上での格差があまりに大きくならないようにするためである」とされています。こうした理由から、年収が非常に高い人であっても、納める保険料と将来受け取る厚生年金額には上限が設けられているのです。

実際に受け取れる年金額 年収1億円なら月いくら?

では、年収1億円の人は実際にいくらの年金を受け取れるのでしょうか。まず、現役時代に負担する厚生年金保険料ですが、標準報酬月額が上限の65万円だとすると、保険料の本人負担分は月額約59,475円。また、標準賞与額も上限の150万円とすると、本人負担分は約137,250円を納めることになります。

将来受け取れる年金額の目安を見てみましょう。

1. 老齢基礎年金(国民年金部分)
40年間全期間保険料を納付した場合、2025年度満額で年額831,700円、月額69,308円です。これは現役時代の収入額にかかわらず、基本的に全員が同額を受け取れます。

2. 老齢厚生年金(厚生年金部分)
仮に、20歳から60歳までの40年間厚生年金に加入し続け、その全期間にわたって月々の給料も賞与も、常に厚生年金制度上の上限額を超えているという、極めて恵まれたケースを想定します。この場合の老齢厚生年金の概算は、年額2,696,652円、月額224,721円となります。

合算すると、公的年金の受給目安は、月額:69,308円 + 224,721円 = 294,029円となり、年額:831,700円 + 2,696,652円 = 3,528,352円となります。

このように、若い頃からずっと最高水準の報酬を得ていたとしても、公的年金の受給目安は月額30万円程度となります。意外に少なく思われるかもしれませんが、これが公的年金制度の実際であり、現役時代の収入とのギャップは大きいといえます。このシミュレーションは仮定に基づくもので、実際の年金額は個々の条件で変動します。収入が高い方であっても、公的年金だけで現役時代と同じような生活水準を維持するのは簡単なことではない、ということを理解いただけたと思います。

実際には、20歳から60歳まで常に収入が上限に張り付いている方は稀でしょう。大切なのは、「ねんきん定期便」などで自分の年金額がいくらになるかを知り、それに基づいて計画的な老後対策を考えることです。

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