はじめに

株式相場が堅調です。日本株は上値の重い展開が続いていますが、それでも下値は限定的で底堅い推移が続いています。米国ではナスダック総合株価指数は年初来リターンがプラスに転換、2月以来の高値水準に達しました。最高値圏にあるドイツ株を筆頭に欧州株も好調です。世界全体の動きを示す株価指数では再び最高値を目指すところまで戻ってきました。

その背景は、市場がトランプ政策の矛盾とその限界を見破ったことが挙げられます。この点について筆者は4月下旬のストラテジーレポート『想定通りに「円安是正」はなくなった』ですでに指摘し、以降も繰り返し述べてきました。ただ、さすがに「TACOトレード」なる言葉は思いつきませんでした。


TACOトレードとは?

最近、欧米のメディアではTACOという言葉がよく語られています。TACOは"Trump Always Chickens Out"の頭文字です。トランプ大統領はいつも最後は尻込みし、自ら掲げた強硬的な態度を翻すという意味です。フィナンシャル・タイムズのコラムニストが名付けたそうです。それを前提とした強気の買い姿勢は「TACOトレード」と呼ばれています。つまり、筆者が従前から指摘していた、トランプ政策の矛盾とその限界を見破った市場の動きのことです。

TACO, Trump Always Chickens Out - つまりトランプ大統領が豹変するのは何もトランプ大統領がチキン(弱虫)だからではありません。冷静に考えればそうなるのは当然のことなのです。少し順を追って説明しましょう。

米国から円安是正の要求を突き付けられるのではないかとの懸念が市場にはいまだに根強く残っています。マールアラーゴ合意、あるいはプラザ合意2.0などという言葉もしきりにメディアに登場します。ですが、米国がドル安誘導を行うことは経済的な側面からは説明がつきません。関税政策を掲げる一方で自国通貨を安くすれば、一段とインフレが進み、対外的な購買力が低下して、結局のところ、いちばん困るのはアメリカの国民です。

経済的には不毛な政策であってもトランプ氏がそれらの政策を実行しようとしているのは政治的な信条に基づいているからです。もっといえば政治的なパフォーマンスなのです。自分を大統領に選んでくれた支持者の意向に応えるために、経済合理性を欠いているにもかかわらず、「米国第一主義」に突き進む姿勢を見せる必要があるのです。

しかし、そうはいっても米国経済がガタガタになってしまえば、いくらトランプ氏の支持者でも不満を持つものが増えるでしょう。支持者の好感を買うために政治的パフォーマンスを続けるか、あるいはやはり経済にも配慮するべきか。トランプ大統領はとても悩んでいると思います。自身の支持者へ向けた政治的アピールを続けるか、米国経済の凋落を防ぐべきか、その二つの選択肢の間で揺れている状態です。

相互関税の発表から1週間後に関税は発動されましたが、その4月9日の日本時間の昼に、ドル・米国債・米国株(先物)が同時に売られるトリプル安が起きました。トランプ政権が関税の90日間猶予を発表したのは、その直後でした。その後も、トランプ氏のパウエル議長解任の意向を受けて、ドル不信から市場の混乱が続くと、パウエル議長の解任を取り下げるとトランプ氏は発言しました。これで市場は米国債やドルが売られたりするのをトランプ政権は看過できないということを知ったのです。トランプ氏といえども、最後のところでは経済を守らなければならないというのが、いまや市場のコンセンサスになっています。それが多くの投資家が「TACOトレード」に賭ける理由です。

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