はじめに

「夫が定年退職してから、家に夫がいるだけでストレスを感じる」──これは、多くの妻から私がFPとして耳にする悩みの一つです。定年後は"第二の夫婦生活"の始まりであり、これまでの関係を見直す大切な機会です。この時期を乗り越えられないと、熟年離婚という選択に至るケースも少なくありません。

今回は、老年学の最新研究とFPとしての経験をもとに、定年後も夫婦関係を良好に保つための実践的なヒントをお伝えします。


「定年後の夫婦関係」が試される理由

人生100年時代、60代はまだ"若い高齢者"といわれるほどアクティブな世代です。しかし、仕事をリタイアし、子育ても終わった夫婦に訪れるのは、「夫婦2人だけで過ごす時間が急増する」という現実です。

老年学研究では、この時期を「ポスト中年期」と呼び、新たな役割への適応が求められる重要な転換期と位置づけています。これまで「仕事」と「子育て」が会話の中心だった夫婦は、職業役割と親役割を終え、残された配偶者役割への適応が求められるのです。特に、専業主婦歴の長い女性は、「夫が四六時中家にいるのが息苦しい」「家事に口を出されてイライラする」といったストレスを感じやすくなります。

統計でも、同居期間35年以上の"熟年離婚"件数は高止まりしています(厚労省「令和4年 離婚に関する統計」より)。定年退職は単なる仕事の区切りではなく、夫婦関係にとって大きな転機といえるでしょう。

良好な関係を築くカギは「4つの習慣」

老年学研究から、定年後の生活に特に役立つ4つの習慣をご紹介します。

1.「ふたりの時間」を意識的に共有する
研究では、夫婦の"共行動"(買い物・旅行・食事など)の頻度が、満足度と強く関連しています。会話がなくても「同じ体験をすること」が絆を深めるのです。例えば、週末に一緒にスーパーへ行くだけでも効果があります。

2.「ありがとう」を惜しまない
「夫の妻への情緒的サポート」や「感謝の言葉」が、妻の満足度に大きく影響します。「いつもお弁当ありがとう」「あなたがいてくれて助かった」といった何気ない一言が、関係の潤滑油になります。

3.「家事シェア」は"量"より"心がけ"が大切
夫の家事参加については、「妻の期待に応えようとする姿勢」が重要です。妻の期待に近づこうとする夫の努力が関係性を良くします。逆に、「やらされ感」や「上から目線」があると、たとえ家事をしていても逆効果になることも。

4.「意見の相違」を建設的に扱う力
満足度の高い夫婦は、意見が食い違ったときの対処法に"習慣"があります。「すぐに反論しない」「冷静になってから話す」「相手の立場で考える」など。ケンカをしないのではなく、「うまく解決できるかどうか」が絆を深めるのです。

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