はじめに
年金改正法が成立し、いよいよiDeCoの「新しい形」が現実のものとなりました。掛金は大幅に引き上げられ、加入可能期間も70歳までとなります。とはいえ、資産が大きくなればそれだけ受取時の課税が重くなる可能性もあるので、その活用方法は人によって異なりそうです。
2024年末の税制大綱の発表からずいぶんと時間が経過しましたが、6月13日にやっと年金改正法が成立しました。今回の改正について、メディアでは基礎年金の給付水準の底上げや遺族年金制度の変更点に注目が集まっているようですが、確定拠出年金については「大幅な拡大」であり、老後資金専用口座の魅力がさらに高まったともいえる内容です。
今回の改正のキーワードは「穴埋め」と「そのまま継続」の二つです。
「穴埋め」とは、掛金の上限を企業年金とiDeCoとの合算で管理するということです。ここは少し面倒ではありますが、第二号被保険者にとってはとても重要な意味を持つので詳しくお伝えします。
改正で掛金は大幅アップ
これまでのiDeCoでは、会社員の掛金上限は、勤務先の企業年金の有無により異なりました。例えば、企業年金のない会社にお勤めの方の上限額は月23,000円です。一方、企業年金のある会社にお勤めの方の場合、月の掛金上限額は20,000円です。ここでいう企業年金は企業型確定拠出年金(DC)、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金を指します。
公務員の場合は、年金払い退職給付金制度がいわゆる企業年金という扱いになるので、やはり20,000円が上限です。
なぜ企業年金がある会社にお勤めのかたは、20,000円と企業年金のない会社にお勤めの方の23,000円より少ないのかというと、会社から企業年金の掛金拠出を受けているからです。しかし、この掛金の額は会社によって異なりますし、人によっては充分な金額を受けられていないにも関わらず、iDeCoの掛金が20,000円で画一的という点に議論がありました。
そこで今回は、第二号被保険者の掛金上限額は一律62,000円、ただし企業年金がある場合はその掛金額との合算が62,000円を超えないこととなりました。つまり、同じ会社員でも企業年金の在り方によってその掛金上限に「でこぼこ」が生じていたところ、62,000円に高さを合わせる「穴埋め」されるということです。
企業年金のない会社にお勤めの方は、23,000円の掛金が62,000円へと大幅アップです。
企業型DCに加入している会社員は、62,000円と企業型DCの事業主掛金との差額がiDeCoの掛金上限額です。なお、企業型DCに加入している人でさらに会社がマッチング拠出を導入している場合は、iDeCoの併用かマッチング拠出かのいずれかを選ぶ必要がありました。この時の判断としては、マッチング拠出の場合、事業主掛金を上回らない金額でしか個人の掛金を拠出できないため、事業主掛金が20,000円未満の場合はiDeCoに別途加入した方が税制メリットを多く受けられるとなっていました。
しかし、今回の改正によりマッチング拠出の際の「個人掛金は、事業主掛金を上回らないこと」というルールが撤廃されました。従って、マッチングを選んでも、iDeCoを選んでも、事業主掛金と合算で62,000円まで掛金を拠出することができるようになります。マッチングを選ぶと会社が手数料を負担してくれるため、マッチングを選んだ方がお得と考える方が増えるかも知れません。なお、転職時の移換の際、企業型DCはすべて現金化されるという点は変らず注意点としてあげられます。
確定給付企業年金や厚生年金基金がある会社にお勤めの方の場合、それらの掛金とiDeCoの掛金合わせて62,000円となる点は企業型DC加入の場合と同じ考え方です。しかし、確定給付企業年金や厚生年金基金の掛金は企業型DCのように個人ごとに明確に金額提示されている訳ではありません。そのため、こちらの掛金は「他制度掛金相当額」といい、会社からお知らせされることになっています。
例えば公務員の場合、他制度掛金相当額は8,000円とされているので、62,000円-8,000円=54,000円がiDeCoの掛金上限額となります。現行20,000円が上限ですからやはり大幅アップです。
確定給付企業年金と企業型DCどちらも会社にあるという方は、他制度掛金相当額と企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金の合算が62,000円を上限とします。
今回の改正は「穴埋め」が目的のため、掛金は企業年金とiDeCoとの合算で62,000円となり、多くのケースでこれまでより多く掛金を拠出できるようになります。しかし、まれに企業年金の掛金だけで62,000円を超える場合はiDeCoに加入あるいは継続ができなくなります。
年収200万円まではiDeCoでの所得控除メリットは薄くなるか
これまでiDeCoの掛金上限額はどんどん拡大してきました。前述の公務員の例でいえば、かつては加入不可だったのが、12,000円を上限としiDeCoに加入ができるようになりました。そして、掛金上限額が20,000円になり、今回の改正で54,000円になります。
また会社員については、「面倒だ」と不満の声が上がっていた事業主に提出を求める証明書の発行が不要となるなど手続き面でも改善が続いています。一方で、会社に確定給付企業年金はあるが、勤続年数が足りずその加入資格がないため、実は確定給付企業年金に加入していないという立場であり、国民年金基金連合会から「加入者資格不該当通知書」が届き掛金の拠出が停止されているという事案も散見されており、さらなる整備が待たれるところです。
第一号被保険者については、月68,000円の上限が7,000円引き上げられ75,000円となります。年間900,000円の所得控除となれば節税効果はかなりのものとなるでしょう。なお国民年金基金も同様に掛金上限が引き上げられる予定です。併用している場合は、これまで同様合算でこの上限額が適用されます。なお小規模企業共済との併用はこれまで通り掛金上限額は干渉しませんので、こちらの掛金月70,000円、年間840,000円の所得控除は同時に利用可能です。iDeCoと合わせると年間174万円の所得控除ですから、上手に活用したいところです。
掛金上限額が引き上げられますが、同時に基礎控除や給与所得控除が引き上げられるので、年収によってはiDeCoの掛金を増額しても節税メリットがでにくいケースもでてきます。詳しくは「iDeCoの節税メリットを失う人も。「年収103万円の壁」引き上げによる影響とは」で解説していますが、概ね年収200万円まではiDeCoでの所得控除メリットは薄くなりそうです。
なお、第三号被保険者(第二号被保険者の扶養の配偶者)の掛金額について、今回の改正はありません。これは上記の基礎控除引き上げとともに、確定拠出年金の拠出時の税制メリットが効きにくくなったことや、別途進む適用拡大にてパートで働く方の厚生年金加入の基準が引き下げられていることに理由があるのかも知れません。