はじめに

東芝の粉飾決算はどのようにして行なわれたのか?

では、近年まれにみる規模の事件となった東芝のケースでは、どのような手口で粉飾が行なわれたのでしょうか?

東芝の粉飾決算に関する第三者委員会の調査報告書によると、東芝の粉飾は、次の4つの方法で行なわれたとされています。

1.インフラ事業における工事進行基準における工事原価総額の過少計上
2.映像事業における経費計上
3.半導体事業における在庫の評価
4.パソコン事業における部品取引

これらの粉飾の手法をすべて詳しく説明するとやや難しくなってしまうので、それぞれの内容について簡単に触れることにしましょう。

1.インフラ事業における工事進行基準における工事原価総額の過少計上

インフラ事業において、工事進行基準(工事の進捗度に応じて売上、費用を計上する方法)を悪用して売上や利益を水増しする方法です。

工事進行基準では、当期に発生した工事原価の額を、予め見積もった工事原価総額で割って工事の進捗度を計算し、その進捗度に応じて売上を計上します。また、見積もった工事の収益(売上)総額よりも見積原価のほうが大きい場合、工事損失引当金を計上しなければなりません。

ところが、東芝では、工事原価を意図的に過少に見積もることで、工事の進捗度をかさ上げして売上を水増しするとともに、工事損失引当金を過少に計上していました。

2.映像事業における経費計上

本来当期に計上しなければならない費用を、取引先に請求書の発行を遅らせてもらうなどして、費用計上を遅らせるという手口です。東芝では、こうした費用計上の延期に加えて、翌期の調達価格の上昇を前提としながら当期の仕入れ価格を値引きするといった形での費用操作なども行なわれていたようです。

3.半導体事業における在庫の評価

半導体事業において、販売の見込みのない滞留在庫の評価減(在庫の計上金額の見直し)を実施せず、損失計上を行なわなかったというものです。さらに、調査報告書では原価計算上のトリックを用いた利益のかさ上げも報告されています。

4.パソコン事業における部品取引

東芝が仕入れた部品を組み立て会社(ODM)に供給する際、供給価格を調達価格の何倍にも設定し(この供給価格を「マスキング価格」と呼びます)、期末にODMに対して部品の押し込みを行なうことで、マスキング価格と調達価格の差額分を利益として計上していたものです。

本来、この差額は完成品がODMから納入された段階で解消されるべきものですが、東芝では意図的に四半期決算期末の段階で部品の押し込みを行ない、かつ決算時点で利益の計上を解消する会計処理を行なっていませんでした。

こうした取引を通じて利益を計上し続けるためには、その取引金額を大きくしていかなければなりません。そのために、東芝ではマスキング価格の吊り上げを行ないました。こうした粉飾を続けた結果、下の図に表したように、2012年度の半ば以降、四半期決算の期末月にはPC事業における営業利益が売上高を上回るような異常な状態になってしまっています。

株式会社東芝第三者委員会「調査報告書」P.303より筆者作成

これらの粉飾は巧妙に仕組まれていたため、2015年4月に内部通報が行なわれるまで発覚しませんでしたが、いずれも売上を過大に、費用を過少に計上することにより、利益を水増しする目的で行なわれていました。

東芝のケースでは、さまざまな手口を駆使して粉飾しているため、内部告発がないととても見抜けないようになっていましたが、一般的な粉飾決算を外部から見抜くための手段としては、回転期間分析やキャッシュ・フロー分析などがあります。

先ほどの東芝などの事例を踏まえつつ、こうした財務データを使った分析をフル活用して行なえば、公認会計士や経理のスペシャリストではない一般のビジネスパーソンでも、粉飾決算の可能性を探ることができ、仕事や投資などに役立てることができるでしょう。


本記事では、「粉飾決算などの会計のトリックやワナに引っかからない、リスクマネジメントとしての“守りの会計思考力”」について、矢部さんから解説していただきました。しかし、会計思考力には「会社を成長させるための“攻めの会計思考力”」もあります。

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コンサルタント、ビジネススクールの講師として活躍してきた著者が、決算書を比例縮尺図に翻訳してビジネスモデルを読み解く方法、財務指標の使い方、粉飾などの見抜き方、戦略に合わせてKPIを設定・運用する方法などを、豊富な実例を交えて解説します。

提供/日本実業出版社

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