はじめに
すでに2025年No.1映画になるのではないかと評されている「国宝」。公開38日間(2025年6月6日公開~2025年7月13日)で、累計観客動員数398万人、累計興行収入は56億円のメガヒットとなっています。
TikTokなど短尺動画が主流になり、配信される映画やドラマは、1.5倍速や2倍速で観る人が多い中、3時間を超える作品が社会現象となるほどのヒットになるのは異常ともいえるかもしれません。もちろんわたしも観ました。平日の夕方のかなり大きい劇場でしたが、ほぼ満席。性別年代問わずの観客で埋まっていました。「歌舞伎」という伝統芸能がテーマなので、年齢層は高めを予想していましたが、思いの外、若い人が多くてびっくり。実際、大学生以下の割合が初週比で倍増、観客数は3倍超という異例の伸びだそうです。
減収減益でも株価は10%以上の大幅上昇
これだけのヒットとなると当然、配給会社の東宝(9602)の株価が上がるのではないかと考えるのが投資家の性。株価をチェックすると2024年に入ってから、大きく下げることなく上昇トレンドが継続しています。わたしが映画を観たのが7月9日で、株価は8,200円程度。その後、7月15日に26年2月期の第1四半期決算発表を控えています。「国宝」の興行収入は、この決算発表では数字に含まれないので、それほどよい数字は出ずにがっかり売りが出るかもしれません。そのタイミングですかさず拾う作戦を考えました。
実際に発表された決算内容は以下のとおりです。
売上高848億円(前年同期比-1.3%)、営業利益193億円(前年比-21.3%)。前年比で減収減益です。営業利益の通期予想は570億円(前年比-11.9%)で、そもそも減益予想ですが、減益率でみても芳しくない数字です。
この要因は、前年同期に「劇場版ハイキュー!!」「変な家」「ゴジラ-1.0」という大型ヒットが集中していたため、それの反動によるもので、構造的な失速ではないようです。ただ、二桁の減益率というのは、第一印象でネガティブインパクトが大きいので、翌日に株価は下落するんじゃないかと密かに期待していました。ところが残念ながら翌日の株価は10.9%の上昇となりました。その理由はいくつか考えられます。
表面的には営業収入・営業利益ともに前年同期比で減少しておりネガティブに見えますが、その中身を精査すると、決して悲観的な内容ではなく、むしろ市場期待を上回るポジティブサプライズが含まれていました。
最も大きな要因は、政策保有株式の売却により特別利益が発生し、親会社株主に帰属する当期純利益が375億円から435億円へと、60億円(+16.0%)上方修正された点です。これにより1株当たり利益は220.34円から256.55円に増加し、株価の理論的な割安感が強まりました。投資家にとって、増益修正はポジティブ材料であり、将来の配当余地拡大への期待も高まりやすいポイント。
また、IP・アニメ事業では「呪術廻戦」や「ハイキュー!!」「僕のヒーローアカデミア」などTOHO animationの主力タイトルが、国内外で堅調に推移しました。海外売上比率も10.2%に上昇し、グローバル展開の強化が好感されました。特に「映像の利用・許諾」や「キャラクターライセンス収入」が前年比で2~4割増加しており、同社が持つ強力なIP資産の成長性に対する評価が高まりました。
さらに、東宝は年間85円の配当を維持する方針を打ち出し、2025年4月には約1,049万株の自己株式を消却。これは将来的な希薄化懸念を払拭し、株主価値の向上に直結する施策です。加えて、中期経営計画「2028」によって、IP事業・アニメ・海外展開を軸に持続的な収益成長を目指す姿勢が明確に示されたことも、将来性への期待感を後押ししました。日本のIPコンテンツの魅力が世界中で注目されている中で、これは投資家への大きなアピールになっています。
さらには「国宝」の興行収入が、第2四半期以降、確実に業績に反映されると先読みされているのもあるでしょう。
結果として市場は、前年の反動による一時的な減収減益よりも、実質的な利益の上方修正と成長ドライバーの明確化に着目し、「実力は落ちていないどころか、むしろ上がっている」と判断したと考えられます。