はじめに

2025年5月16日、年金制度改革法が国会に提出され、6月13日に成立しました。少子高齢化の加速、働き方や家族の形が多様化し、従来の制度ではカバーしきれない課題が増えていたためです。この改正により、自分の働き方やライフスタイルを主体的に選択する力が、さらに求められるようになります。今回は、将来後悔しない選択ができるようになるために、2025年の年金制度改正のポイントを分かりやすく解説していきます。


なぜ年金制度が変わるのか?

日本の年金制度は、長い間「会社員の夫と専業主婦の妻」というモデルを前提に作られてきました。しかし、実際には共働き世帯が増え、シングル世帯も増加し、パートやフリーランスなど多様な働き方が当たり前になってきました。

今回の年金制度改革は、このような社会や経済の変化に対応し、年金制度そのものの機能を強化するために行われます。特に多様化する働き方や、男女の区別にとらわれない公平な制度づくりを目指し、さまざまな家族の形やライフスタイルを尊重できる仕組みを整えることが大きな柱です。また、公的年金だけでなく私的年金も活用しやすくすることで、高齢期の生活をより安定させる狙いがあります。

年金制度改正のポイントを解説

ここからは、今回の改正で押さえておきたいポイントを解説します。

①被用者保険の適用拡大

これまでは、年収106万円以上(給与が月給8万8千円以上)・週20時間以上働く人で、かつ従業員51人以上の事業所に勤めている場合しか厚生年金に加入できませんでした。

今回の改正では、いわゆる年収106万円の壁が廃止されます。全国の最低賃金引き上げの状況を見極めた上で、法案が成立してから3年以内に廃止されます。また、加入対象を従業員51人以上の企業のみとしていた企業規模要件が、10年かけて段階的に撤廃されるようになります。

さらに、常時5人以上使用する個人事業所でこれまで適用外だった飲食業や農業、宿泊業などの業種にも拡大されます(2029年10月時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外となります)。

一方、このような社会保険の適用者の拡大は、中小企業にとっては保険料負担の増加が心配されます。そのため、一定期間の負担軽減策や国がサポートする仕組みも準備されています。

②在職老齢年金制度の見直し

年金を受給しながら働く高齢者が、年金を減額されにくくなり、より働けるようにするために、在職老齢年金が見直されます。現在は、年金を受給しながら働く高齢者の賃金と老齢厚生年金の合計額が月50万円を超えた場合、年金が一部減額もしくは全額支給停止されます。それが、2026年4月から62万円に引き上げられることになりました。

たとえば、現行は賃金と厚生年金の合計額月55万円(賃金月45万円、厚生年金月10万円)の場合、基準の50万円を超えた5万円の半額2万5千円が厚生年金から減額されます(厚生年金は7万5千円支給)。しかし、改正後は、賃金と厚生年金の合計額が月55万円の場合には、厚生年金は減額されず全額支給されることになります。これにより新たに約20万人が年金を全額受給できるようになると試算されています。一部で指摘される高齢者の働き控えを緩和し、人手不足を解消する狙いがあります。

③遺族厚生年金の見直し

遺族厚生年金のこれまでの仕組みは、亡くなった人の性別や年齢によって支給条件が大きく異なっており、さらには男性の遺族には支給が制限されるなど男女差がありました。こうした男女の差をなくし、配偶者が亡くなった場合、男女共通の仕組みへと変更されます。男性は2028年4月から実施、女性は2028年4月から20年かけて段階的に実施されます。

具体的には、60歳未満で亡くなった場合、原則として5年間の有期給付が行われます。ただし、障害や低所得など特別な事情がある場合には、5年を超えて支給が続けられる仕組みも用意されています。また従来、年収が850万円を超えると給付が受けられない収入制限がありましたが、これも廃止されます。さらに、年金額そのものも増額され、死亡分割(配偶者の死亡を年金額に反映する計算方法)の見直しによって支援水準が上がる予定です。たとえば、子どもがいない30歳の方が配偶者を亡くした場合には、まず5年間の遺族厚生年金を受取れます。所得や障害の状態により配慮が必要な場合には、最長で65歳まで支給が継続されます。

ただし、60歳以上で配偶者が亡くなった場合、これまで同様に無期限の給付が続きますので、特に大きな変更はありません。また、既に遺族厚生年金を受給しているなど、一定の要件に該当する方も、今回の見直しによって受ける影響はありません。

また、子どもがいる場合の遺族基礎年金についても改善されます。これまでは親の離婚や再婚などの事情で子どもの遺族年金が止まってしまうケースがありましたが、改正後は子どもの生活を最優先に、安定して年金を受取れるように見直されます。

年金はいくらもらえる? 気になる老後資金はお金のプロに無料相談[by MoneyForward HOME]