はじめに

④厚生年金保険の標準報酬月額の上限引上げ

現在は保険料や年金額の計算に使う標準報酬月額(従業員の月々の賃金を等級に分けて表しているもの)の上限が、月65万円となっています。上限が設けられている理由は、年金の給付額に大きな差が出ないようにするためと保険料を負担する事業主の負担を考慮するためです。そのため、現在の標準報酬月額の上限(65万円)を超える賃金などを受取っている方は、収入に応じた年金を受取ることができない状態になっています。

賃金が上昇傾向にあることも踏まえ、標準報酬月額の上限が、65万円から75万円に引上げされることになりました。2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と段階的に引き上げられます。上限を引き上げることで、賃金などが月65万円を超える方は、その収入に応じた保険料を負担し、現役時代の収入に見合った年金を受取れるようにします。

⑤私的年金制度の見直し

老後資金を自分で積み立てやすくするために、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入年齢の上限を70歳までに拡大します。これにより、たとえば60歳以降でも働き続ける方も、iDeCoを活用した老後の資産形成がしやすくなります。

また、企業型DCの加入者が、事業主の拠出に上乗せして拠出できるマッチング拠出について、現行は事業主の掛け金額を超えられないという制度を撤廃し、拠出限度額を十分活用できるようにします。さらに、企業年金の情報についても厚生労働省が公表する仕組みが整備され、加入者は自分の年金がどう運用されているかを確認しやすくなります。

その他、将来の基礎年金の給付水準が底上げされるような見直しも予定されています。

改正に潜む課題

今回の改正については、いくつかの課題もあります。たとえば、被用者保険の対象拡大で中小企業の負担が増えると、人件費を抑えるために雇用が減る可能性があります。在職老齢年金の基準引き上げも、高齢者の健康管理や職場の理解がなければ働き続けるのは難しいかもしれません。

さらに、遺族年金の有期化に「5年で切られるのは不安」と感じる人や標準報酬月額の上限引き上げによって負担増を嫌う高所得者層も出てくるかもしれません。制度が複雑になることで「もうわからない」と理解することを諦めてしまう方も出てくるリスクもあります。こうした課題に対応するには、国や企業の十分な説明と合わせて個人が情報をしっかりキャッチして備える姿勢が重要です。

私たちにできる備えとは

今回の年金制度改革は、社会構造の変化や働き方・家族のあり方の多様性を反映したものになります。そして、その仕組みを使いこなすのは他でもない私たち自身です。「知らなかった」で損をしないためには、改正の内容を正しく理解し、自分にとっての最適な選択ができることが重要です。

年金はいくらもらえる? 気になる老後資金はお金のプロに無料相談[by MoneyForward HOME]

この記事の感想を教えてください。