はじめに

ずっと探していた本が見つかったり、あるいは未知の本に出会えたり。そんな本との出会いがあるのが、古書店。その一方で、古書店の経営については、意外と知られていません。店舗を構え、個人からの持ち込みで買い取りを行う古書店の開き方とは? 

今回は、吉祥寺で2006年に開店、古本を中心に新刊、リトルプレスを取扱い、他ではみられない品揃えで、多くのファンをもつOLD/NEW BOOKSELECTSHOP「百年」の店主・樽本樹廣さんにお話を伺いました。仕入れから利益率まで、気になる古本の世界を教えてもらいました。


古書店という形は利益率を考えての選択

OLD/NEW BOOKSELECTSHOP「百年」は、その名の通り、古書と新刊書、両方を扱うお店です。店主・樽本樹廣さんがオープンしたきっかけは、「本への愛」だったといいます。

樽本:もともと、都心にある大型の新刊書店で働いていたんです。新刊書店だと、出版取次(出版社と書店の間に立ち、流通を担う中間業者)から新刊書がとめどなく入ってきて、とめどなく返品していく。それが、本好きの立場から違和感がありました。本は商品ではありますが、ただの商品ではない。愛着があるものだし、愛をもって接していきたいなと思ったんです。その当時、30歳前だったので、自分で本屋をやってみようかなと。

最初は新刊書店がやりたかったんです。ただ、調べていくうちに、利益率を考えると、個人では難しそうだとわかってきました。

利益率は、新刊書だと約2割、古本では約7割。1日5万円を稼ぐとしたら、新刊書店だと相当な売上高が必要です。そうすると、駅の近くに店舗を構え、それなりの広さが必要になります。坪数と坪単価が上がってくるので、個人では難しいんです。古書店という形は、個人で経営するうえで、視界が広かった、というのが決め手になりました。

古書店の経営の肝は在庫管理

「百年」で取り扱う商品は、新刊が1割。そのなかには、ZINE(個人で作った本)やリトルプレス(少部数発行の本)も含まれます。新刊書の多くは、出版社と取引をしての、委託販売(買い取らず、返品可能な状態で販売すること)だと言います。そして、全商品の9割が古本。その仕入れは、大半がお客様からの買い取りだそうです。

新刊の利益率は、買い切り(買い取っての販売。返品ができない)だと3割、委託販売で2割程度です。現在、買い切りで受けるのは、利益率4割が目安。それ以下だと基本的に扱わないと経営的観点から決めているそうです。

新刊書の仕入れの仕組みとは…
新刊書の多くは、出版社から直接ではなく、出版取次と呼ばれる中間業者を通じて仕入れる。また、ほとんどが出版社からの買い取りではなく、書店が本を預かって販売する「委託販売」。そのため、売れなかった本は返品することができる。

樽本:店の商品のほとんどを占める古本の仕入れは、お客様からの買い取りが現在、約7割。あとは、東京都古書籍商業協同組合(以下、東京古書組合)の古書市場から。そこで、ほぼ毎日開催されている古書市場交換会というものがあり、全国の組合員が持ち寄った本を交換、落札しているんです。この古書市場は、神保町、高円寺、五反田にあります。

古書市場は、仕入れだけではなく、在庫管理でも重要な役割を果たしてくれます。お客様から売られた本は、基本的に全部買い取ります。「出版社からの委託販売」という形を取っている新刊書店と違い、古書店では、店でもっている本は全部が自分たちの在庫であり、資産です。

買い取ったままだと、在庫を多大に抱えることになりますから、お客様から買い取って、「うちの店では売れそうにない」というものは、古書市場の交換会に出して、売って、逃がすことができるんです。

古書店の経営の上手い、下手は、「うちの店で売れる、売れない」の見極めと、在庫管理。ここは、他の商売と変わりません。

東京都古書籍商業共同組合とは……
東京都の認可を受けた、古書籍業者の協同組合。1947年創立。神保町の東京古書会館、五反田の南部古書会館、中板橋の北部古書会館、高円寺の西部古書会館で開催される古書籍市場(交換会)では、一般書から専門書、洋書など、多種多様なジャンルの古書が扱われている。その市場の取引により、古書の相場が決定されている。
全国的なネットワークにより、貴重な古書を必要とする人の手に渡す役割も担う。589名の組合員が在籍(2017年11月末のデータによる)。

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