はじめに
かつては一家で農業に従事する家庭も多くありましたが、少子高齢化や都市への人口集中に伴い、農家の数は年々減少しています。それに伴い、相続などで引き継いだ農地の処分に悩む方が増えてきました。そして、「早く売りたいのに買い手が見つからず、売却処分がなかなか実現できず苦慮している」という声も急増しています。
そこでこの記事では、「農地は売れないって聞いたけど本当?」「どう処分すればいいかわからない…」とお困りの方に向けて、農地の基本的な法制度や売却の選択肢、農地転用・国庫帰属制度などをわかりやすく解説します。
農地が「売れにくい」のはなぜか
農地が住宅や店舗用地と異なる最大の理由は、その不動産を「自由に売買できない」点にあります。
一般の不動産であれば、売主と買主の合意があれば売買契約を結び、名義変更を行うことができます。しかし農地の場合、たとえ当事者同士が合意していたとしても、市町村の農業委員会の許可がなければ取引は成立しません。これは農地法により、農地の保全や食料自給率の維持を目的として厳しく規制されているためです。
そのため、不動産会社でも農地の売買仲介には消極的な傾向があり、売却先を見つけること自体が困難となっています。
処分の選択肢
①農地のまま売却する
最もシンプルな処分方法は、農地として使いたい新たな農家に売却することです。この場合、農業委員会から、農地法第3条という法律で定められた売買許可を得ることが必要となり、買主も農業従事者であることが条件となります。
かつては下限面積要件として、買主が所有する農地が合計50アール(5,000㎡)以上でなければ許可されないという制約がありましたが、2023年にこの要件は撤廃されました。これにより、新たに農業を始めたい個人との間でも農地を売買しやすくなっています。
とはいえ、そもそも農地を求める人自体が少ない状況では、すぐに買い手が見つかるとは限りません。そこで、地元の農業委員会やJAに相談したり、農地マッチングサービス(たとえば筆者の運営する「フィールドマッチング」など)を利用したりすることが、買い手候補を探すための有効な手段となるでしょう。
②農地転用で「農地でない状態」にする
農地を処分しやすくするもう一つの方法は、「農地でない状態に変える」ことです。これには以下の2つのケースがあります。
1. 農地転用による物理的変更
畑や田んぼを、例えば駐車場や資材置き場などに転用することを「農地転用」といいます。所有者自身が転用手続きする場合は農地法第4条、売却後に買主が転用手続きをする場合は農地法第5条による許可が必要です。
ただし、転用には土地の区域区分が大きく影響します。具体的には、市区町村が定めている農業振興地域内の農用地区域(通称:青地)」に指定されたエリア内の農地は、原則として転用が許されません。一方、白地と呼ばれる、農用地区域外区域であれば、条件付きで転用が認められる可能性があります。
また、農地転用の申請にあたっては、土地を転用する以上、舗装工事などの初期投資が必要となるケースもあり、そういった手間や費用も考慮する必要があります。
2. 実態に合わせて「非農地」として地目変更する
長年耕作されておらず、実態が山林のようになっている農地もあります。こうした土地は、農業委員会に申請して「非農地証明書」を取得し、登記簿上の地目を雑種地などに変更することで、農地法の規制を外すことが可能です。
この場合、先に紹介した農地転用とは異なり、大規模な工事が不要で、比較的短期間・低コストで処分しやすくなる点が大きなメリットです。ただし、青地の農地については証明書が発行されないケースも多く、事前に区域の確認が必要です。
③売却も転用も困難な農地は「国庫帰属制度」へ
上述のような手続きが難しい、あるいは買い手が見つからない農地については、2023年に施行された相続土地国庫帰属制度の活用が有益です。
この制度では、相続によって取得した土地に限り、一定の要件を満たすことで国が有償で引き取ってくれます。特に農地については、農地転用をせずとも引き取り対象となる可能性があり、他の土地種別に比べて制度の利用ハードルが低い点が特徴です。
引き取りには1筆あたり原則20万円程度の負担金が必要となりますが、長期間売れずに所有し続けることによる固定資産税や管理負担を考慮すれば、十分に合理的な選択肢となるケースも少なくありません。