はじめに

このところ金利が上昇しているせいか、銀行の株価が堅調に推移しています。金利水準が上がれば、預金の利率以上に貸出金利を引き上げられるため、銀行の預貸利ざやが大きくなるからです。しかし、楽観してばかりいられない事情もありそうです。


預金獲得競争が激化?

これはインターバンク市場に関わっている人から聞いた話ですが、最近、銀行の預金獲得競争が激化しているそうです。ちょっと前までは、預金を集めたところで、それを貸し出す先がないという理由で、多くの銀行は預金を集めたがりませんでした。

銀行にとって預金は低利の資金調達手段であり、貸出は運用に該当します。そして昔は、預金を集めれば集めるほど、その貸出先もあったので、預貸ビジネスが銀行の主柱になっていたのですが、今は事情が大きく異なります。高度経済成長から低成長に移行し、かつ日本の人口が減少局面に入ったことから、企業が銀行からどんどん資金を借り入れ、設備投資によって生産を増やし、それを消費者に買ってもらうという好循環が、失われてしまったのです。

当然、借りてくれる先が無ければ、銀行としても預金を集める意味がありません。日銀が公表している「貸出・預金動向速報(2025年8月)」のデータから預貸率を計算すると、以下のような結果になります。

・メガバンク・・・・・・54.60%
・地銀・・・・・・73.43%
・第二地銀・・・・・・75.26%
・信用金庫・・・・・・48.40%

預貸率とは、預金残高に占める貸出残高の割合です。この数字が下がるほど、集めた預金に対して十分な運用先がないことを意味します。地銀、第二地銀はそれでも70%台を維持していますが、いずれも預金が余っていて、貸出し切れない分については、さまざまな有価証券運用によって、何とか利ざやを稼いできました。

相続による預金流出が現実化

ところが、ここに来て一転、銀行のなかでも地銀や第二地銀、信用金庫といった地域金融機関が、預金獲得競争を繰り広げているのだそうです。

先日、日本総研が「『金利のある世界』で動き出す預金」というレポートを発表しました。それによると、メガバンクを含む大手行やネット銀行、大手地銀は預金の残高を伸ばしていますが、地銀下位行やJAバンク、郵便貯金は預貯金残高が減少していることが見て取れます。

理由は2つ考えられます。

ひとつは金利競争です。特に近年はネットバンクが高い金利で預金を集める傾向があります。ネット銀行はインターネット経由で簡単に口座を開設できることから、魅力的に見えるキャンペーン金利などを目的にして、既存の金融機関から預金を移動させる傾向があるように思えます。

次に、これは構造的な要因であり、冒頭で触れたインターバンク関係者の方も気にしていたことですが、相続の影響です。

地方から大都市圏への、特に若者を中心にした人口移動は、かねてから指摘されていることです。それにより、地方の高齢化が進み、かつ経済の活力が損なわれるのが大きな課題とされてきましたが、ここに来てもうひとつ大きな課題が生じてきました。それが、相続による地方から大都市圏への預金の移動です。

地方で高校生活を送った後、進学を希望する人の多くは、地元の大学ではなく東京や大阪など大都市圏の大学を目指します。そして、就職先は自分が生まれ育った地元企業ではなく、東京や大阪に本社を置く大手企業を選びます。結果、親は地方に住んでいても、子供は大都市圏を中心に生活するようになります。

そして、年老いた親が亡くなり、相続が発生します。預貯金もその対象です。すると、親は生前、地元の金融機関と付き合っていましたが、子供の生活拠点がそこにはないため、当然ながら子供たちは自分たちが今、生活を送っている大都市圏の銀行などに、相続した預金を移そうとします。

結果、地元にしか支店ネットワークがない小さな地方銀行、信用金庫、信用組合、JAバンク、郵便貯金などから預金が流出するのです。この傾向は、そう簡単に止まるとも思えません。

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