はじめに

皆さんは、年末年始の時間をどう過ごす予定ですか。年の始まりは、ご自身の今後の生活や仕事について落ち着いて考える時間もあることでしょう。

そこで今回紹介したいのが、お金のことわざです。それも《時は金なり》とか《金の切れ目は縁の切れ目》とか《安物買いの銭失い》などのメジャーなことわざではありません。皆さんがいままで耳にしたことがないであろう「マイナーなことわざ」を取り上げてみたいのです。

ことわざ――すなわち昔の人々の経験や知恵の結晶――を振り返ることで、新しい年に向けて、お金とのお付き合いの仕方を改めて学んでみるのはいかがでしょうか?


ネガティブな「お金あるある」

想像に難くないことですが、「お金のネガティブな側面」を表現したことわざは多いものです。例えば「借金」もそのひとつ。借金ばかり増えるのにお金はぜんぜん貯まらない《あるは借金ないは金(かね)》とか、敵の前では平然といられるのに借金している相手の前では萎縮してしまう《敵の前より借金の前》ことがあるのです。

もうひとつ注目したいのは、「お金の偏り」ぶり。つまり、あるところにはあるのに、ないところにはないのがお金である《金(かね)は片行き》といった状況もことわざになっています。

そんなネガティブなことわざの中でも、ひときわ存在感があるのは「お金の枯渇」を表すものでしょう。何しろことわざでは「お金とオバケには滅多に出会わない」《ないものは金(かね)と化け物》とも言われるほどです。その枯渇の理由もさまざま。人が誕生すればお金がかかりますし、人は死ねばもっとお金がかかります《生き二両に死に五両》。生活しているなかで物が壊れたらまたお金がかかりますし《がったり三両:がったりとは物が壊れる音のこと》、引っ越しすればまたお金がかかります《引っ越し三両》。もちろん人と会えば、地味に交際費が消えることになるでしょう《会えば五厘(りん)の損がゆく》。当然のことながら、人生にはなにかにつけてお金がいるのです。

お金の威光

そんな「お金のネガティブな側面」のうち、もっとも露骨な側面が「お金の威光」なのではないでしょうか。

「お金さえあれば、筋も道理も何でもひっくり返すことができる」といった不条理を表したことわざです。このジャンルには《地獄の沙汰も金次第》というメジャーなことわざがありますが、この他にも《金の光は阿弥陀(あみだ)ほど》とか《仏の光より金(かね)の光》とか《阿弥陀も銭で光る》といった表現もあります。地獄の閻魔さま、仏さま、阿弥陀さまといった大物たちも、お金の威光にはかないません。

大物が出てこない表現も豊富です。例えば、旦那、旦那と立ててもらえるのも、実はお金のお陰であるとか《金(かね)が言わせる旦那》、お金さえ出せば知らない道だって案内してくれるとか《知らぬ道も銭が教える》、お金さえあれば「馬鹿」さえ隠すことができるとか《銭は馬鹿かくし》、それはそれはお金の威光は絶大なのです。それはそうと、馬鹿ってお金で隠せるんですね。

人の卑しさ

もうひとつ「お金のネガティブな側面」を挙げるならば「卑しさ」(下品さ/ケチさ)もあるかもしれません。

例えば、お金をためた人はそのぶん欲も深まり、むしろケチになる状況もあります《金(かね)と塵(ちり)は積もるほど汚い》。また、お金は義理・人情・交際という3つの要素を「欠く」ほどのがめつい人間に溜まりがち《金(かね)は三欠く(さんかく)に集まる》と述べることわざもあります。

さらには「お金を借りる時は笑顔を見せるが返す時には仏頂面になる」などという状況も起こるのです《借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔》。現代のネット用語にも、金儲けを忌み嫌う「嫌儲(けんちょ)」という言葉があります。「お金と卑しさを結びつける発想」は昔も今も変わらないようです。

そんな卑しさを表したことわざの中でも、個人的に強烈な印象を持っている表現が《一文銭で生爪(なまつめ)剥がす》というものです。《一文銭か生爪か》と表現する場合もあります。これは「金を手に入れるためなら、たとえそれがわずかな金であっても、我が身を傷つけることを厭(いと)わない」ことを表すのだそう。ケチを自称される方もいらっしゃると思いますが、ここまで徹底したケチはレアかもしれません。

人間関係を壊すもの

そして「お金のネガティブな側面」として忘れてはならないのは、「お金はときに人間関係を壊す」ということでしょう。このような教訓を語るメジャーなことわざには《金の切れ目が縁の切れ目》があります。一方で、マイナーなことわざにも《金(かね)の貸し借り不和の基(もと)》という表現があります。

もっと踏み込んで、お金のトラブルは「こんな人間関係を壊す」と述べていることわざもあります。例えば、友人関係の崩壊を表すもの《金を貸せば友を失う》や、恋愛・婚姻関係の崩壊を表すもの《愛想づかしも金から起きる》、さらには親子関係の崩壊を予感させるもの《親子の仲でも金銭は他人》まであるのです。お金のトラブルがいかに身近な人間関係を破壊してしまうのかを、これらのことわざは語っているわけです。

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