はじめに
退職金制度の有無は、人材確保において重要な判断材料となり、中小企業でも制度整備を検討する動きが広がっています。しかし、「費用負担が重い」「制度設計が難しい」という理由から導入に踏み切れない企業も少なくありません。
今回は、制度改正によりメリットが拡大する「中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)」を、コストを抑えながら導入できる中小企業向けの退職金制度として紹介します。
企業型DCが中小企業に広がりにくい理由
中小企業の人手不足が続く中、「退職金制度がある企業」は採用活動で確かな優位性を持ちます。
マイナビの『転職動向調査 2025年版(2024年実績)』では、「応募意欲が高まる制度・人事施策」の中で、『退職金制度がある』が42.8%で最多となり、転職希望者が重要視するポイントであることが示されています。
近年は学校教育やSNSの影響もあり、若い世代ほどiDeCoやNISAなどの税制優遇制度に明るく、企業が資産形成を後押ししてくれることに魅力を感じています。そのため、大企業で導入が進む「企業型確定拠出年金(企業型DC)」は、退職金制度の一種として、採用面での評価を高める要因ともなっています。
しかし、企業型確定拠出年金を導入している企業は、大企業に留まり、中小企業では、企業型DCの導入・運営に次のような課題が生じます。
・導入時に初期費用が必要
・毎月の管理手数料が企業負担
・投資教育の実施が努力義務として求められる
・維持管理や規約変更など、事務負担が大きい
こうしたハードルが、中小企業が企業型DCを導入しにくくさせる最大の理由です。
その一方で、内部留保から都度支払う“なんとなくの退職金”でお茶を濁している会社も散見されます。しかしこれでは、会社・従業員ともに税制メリットを活かせず、制度としての安心感も不足します。
内部留保頼みの退職金には次の問題があります。
・従業員が受け取る金額が不透明
・退職時の企業の利益状況で支給額が左右される
・積立型退職金のような損金算入のメリットを受けられない
・計画的な資金準備ができず、支払期に資金繰りを圧迫する恐れがある
あるいは中小企業退職金共済(中退共)を導入している会社も少なくありません。しかし残念ながら、中退共の予定利率は1%とされており、「将来に向けて増える」退職金ではありません。また掛金上限が30,000円なので、設計によっては充分な退職金が作れない可能性もあります。
確定拠出年金は、経済成長を受けながら資産を増やすことができる仕組みなので、やはりここでも優位性は高いといえます。
本来、退職金制度は、会社が掛金を全額損金算入できる、従業員は退職所得控除の適用により税負担が軽減されるという経済的なメリットの他にも、従業員の老後不安の解消につながり、従業員の心理的安心にも寄与することが重要でしょう。以上より、内部留保や中退共と比較すると、やはり確定拠出年金は退職金として望ましい制度といえます。