はじめに
従業員のiDeCoに企業が上乗せする「iDeCo+」の仕組み
しかしながら、会社側の負担が大きい企業型DCの導入は中小企業には敬遠される傾向があったため、2018年に創設されたのが中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)です。これは、300人以下で企業年金のない会社のみが利用できる制度で、従業員が加入するiDeCoに企業が掛金を上乗せ拠出する仕組みです。
企業型DCとの大きな違いは、企業が制度そのものを設計する必要がなく、従業員のiDeCoへの上乗せのみで成立する点にあります。これにより、企業の負担は大幅に抑えられます。
iDeCo+の特徴は次の通りです。
・導入費用ゼロ
・管理コストゼロ(給与天引き等の基本的な事務は必要)
・投資教育の義務なし
・掛金のルールがシンプル(対象者一律、勤続年数ごとなど)
・iDeCo加入者のうち、希望者だけが対象となる
・拠出した掛金は全額損金算入
このように、iDeCo+は、企業型DCのメリットをそのまま残しながら、圧倒的に負担が軽く、中小企業でも導入しやすい点が魅力です。
2027年に「iDeCo+」は大きく改善される
一方で、長年iDeCo+の弱点とされてきたのが、iDeCoの掛金上限額(23,000円)に縛られるため、企業型DCの55,000円と比べ拠出可能額が小さいことでした。
しかし、この弱点が2027年の法改正(予定)により大きく改善されます。新しい上限額では、会社員のiDeCo掛金が月額62,000円まで可能になり、iDeCo+の事業主掛金と個人掛金の合算も同額まで拠出できます。企業型DCとiDeCo併用、あるいはマッチング拠出の合計額も同じ62,000円が上限となるため、拠出可能額の面では両者の差がなくなるのです。
制度上、企業型DCには掛金の柔軟設計(役職別・評価別など)ができるという利点は残りますが、中小企業が求める“シンプルで導入しやすい退職金制度”としては、iDeCo+が十分に目的を果たします。
では、iDeCo+導入によりどのようなメリットが得られるのでしょうか。
【企業側のメリット】
・導入・運営コストがかからない
・税務上有利(掛金は全額損金)
・退職金制度の整備により採用力・定着率が向上
・制度設計が簡単で、管理業務も最小限
・従業員の資産形成支援を低負担で実現できる
【従業員側のメリット】
・老後資金を計画的に積み立てられる
・受取時は退職所得控除が使え、税負担が軽い
・会社からの上乗せ拠出で、自助努力の効果が高まる
・企業型DCと異なり「移換」が不要なので投資の継続性が高まる
特に従業員側の最後のメリットは重要で、企業型DCはどうしても転職時に転職先あるいはiDeCoに資産を移換しなければなりません。その際すべての運用商品は現金化され、しばらくの間投資が継続できない期間が発生します。しかしiDeCo+は、加入者自身の「個人型」に企業型掛金を拠出していただけなので、転職しようが移換の必要がないため、そのまま運用を継続できるのです。
制度改正後は、iDeCo+が「手軽でありながら企業型DCに見劣りしない制度」として中小企業の選択肢に強く浮上してきます。
「退職金制度を整えたいが、企業型DCはハードルが高い」と嘆いている企業であれば、制度改正後のiDeCo+を検討する価値があります。中小企業にとっての“ちょうど良い退職金制度”として、これからさらに注目が高まると筆者は期待しています。
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