はじめに

公園で遊んでいた幼い子どもがボールを投げ、駐車中の車にキズをつけてしまった。認知症の高齢者が外出中に誤って他人を転倒させてしまった。このような場合、「損害を与えた本人」に賠償責任は発生するのでしょうか。また、こうしたケースをカバーできる保険はあるのでしょうか。今回は、「責任無能力者」による事故と、その賠償責任・補償について考えてみます。


責任無能力者とは

民法における「責任能力」とは、行為の結果を理解し、自分の行動をコントロールできる能力をいいます。

民法第712条では「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない未成年者は責任を負わない」とあり、第713条では心神喪失者についても同様に扱われています。

つまり、幼児や重度の知的障がい、認知症などによって判断能力が十分でない人は「責任無能力者」とされ、たとえ他人に損害を与えても、法律上の損害賠償責任は原則として生じません。悪意や過失が認められない以上、本人の責任とは言い切れないからです。

損害は誰が責任を負うのか

法律上損害賠償責任がない場合、被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。

民法第714条では「責任無能力者が他人に損害を加えたときは、その者を監督する法定の義務を負う者が賠償する責任を負う」と定められています。

親や後見人、介護者など、日常的にその人を見守る立場の「監督義務者」に責任が及ぶ場合があるということです。ただし、すべてのケースで自動的に責任が発生するわけではありません。

たとえば、最高裁平成28年の「JR東海認知症事故訴訟」では、認知症の男性が線路に立ち入って列車を停止させた事故をめぐり、妻に監督義務があるかどうかが争われました。

訴訟の結果、妻の監督義務はないと判断され、賠償責任を負わないことが認められています。このように監督義務者の責任は、「義務を尽くしたかどうか」「予見可能性があったかどうか」といった事情を踏まえ、個別に判断されます。

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