はじめに
ある日、子どもたちのおままごとの様子を見て、筆者は思わず笑ってしまいました。
「お支払い方法は?」
「PayPayで!」
「ではこちらのQRコードを読み取ってください」
スマホ操作を誘導する流れまで完璧で、まるで本物の店員とお客さんのようです。
思えば、私たち大人も現金を使う機会がめっきり減りました。スーパーやカフェ、コンビニでもスマホをかざせば支払い完了。財布の中身を確認することも、硬貨を数えることもほとんどありません。
子どもたちにとっても「お金を払う=スマホをかざす」という感覚が当たり前になりつつあります。
そして今、そんな“現金に触れない世代”の子どもたちにとって、どうすれば「お金の価値を感じる力=金銭感覚」を育てられるのかが、親世代にとって新しい課題となっています。
キャッシュレスの便利さの裏にある落とし穴
キャッシュレス決済比率は年々上昇し、経済産業省の発表によると2024年には42.8%と、4割を超えました。スマホひとつで何でも買える便利な時代ですが、実はその裏に“金銭感覚が育ちにくい”という落とし穴があります。
キャッシュレスでは、支払いの瞬間にお金が手元から離れる感覚がありません。心理学では、現金払いのときに感じる「お金が減る痛み(payment pain)」が使いすぎを抑えるとされます。財布から札を出し、硬貨を数えることで、私たちは無意識に「今、お金を使っている」と実感するのです。
一方、キャッシュレスではこの痛みが弱く、「気づけば使いすぎていた」という事態を招きやすくなります。特に子どもにとっては、「お金=見えない数字」となり、価値との結びつきが薄れてしまうでしょう。
##「触れる経験」が金銭感覚を育てる
お金の価値を理解する力は、数字の勉強ではなく体験から生まれます。500円玉の重み、1,000円札が減っていく感覚。こうした五感を通した経験が、「お金の重み」や「価値を交換する感覚」を育てていきます。
子どもたちに必要なのは、お金を見て・数えて・渡すという具体的な経験です。これらの経験を通して、「お金は使えば減る」「ものの価値には差がある」といった基本的な金銭感覚が自然と身につきます。デジタル教育が進む今だからこそ、手で触れる“アナログなお金体験”は貴重なのです。
家庭でできる「金銭感覚のジム」
現金は、いわばお金の感覚を鍛えるジム。家庭でも、遊びや日常の中に無理なく取り入れることができます。
・お店屋さんごっこに現金を導入
おもちゃのお札や硬貨を使い、品物の値段を決めてやり取りしてみましょう。計算力も一緒に育ちます。
・小額のおつかい体験
駄菓子屋やパン屋で、100円や500円を渡して「どれを買うか」考えさせると、価値判断の練習になります。
・お釣りクイズ
「300円の物を500円で買ったら?」など、遊びながら数える力を育てましょう。
・レシート確認タイム
一緒に買い物の合計を確認し、「今日は○○円使ったね」と振り返ることで支出の実感を得られます。
こうした体験を積み重ねることが、将来「自分でお金をコントロールできる力」につながります。
現金を「教育ツール」として活かす
普段の生活ではキャッシュレスで十分かもしれません。でも、週に1回、あるいは月に2〜3回だけでも現金を使う機会をつくることで、子どもの金銭感覚は確実に磨かれます。現金を「時代遅れ」と切り捨てず、教育ツールとして活かす発想が大切です。
お金は単なる数字ではなく、重みをもって価値をやり取りする大切な道具であり、その実感を伝えていくことが、親から子への一番身近な金融教育です。
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