はじめに

iDeCoは利益がでていないのに税金が発生する可能性がある

またiDeCoの老齢給付の際適用される退職所得控除は、加入期間によって計算されます。加入期間20年までは1年あたり40万円、それ以上は1年あたり70万円です。しかし、個人年金保険が「もうけ」の部分から50万円の特別控除を差し引くのに対し、iDeCoは受取総額から退職所得控除を差し引くので、状況によっては課税所得が大きくなる場合があります。

例えば、加入期間に対して受取額が多い場合です。少し極端かも知れませんが、2027年からの会社員の掛金上限額62,000円で考えてみます。

加入期間15年、月の掛金62,000円を4%で運用できると、受取総額は1,520万円です。これに対し、退職所得控除は600万円です。超過分920万円の2分の1である460万円が課税対象ですから、所得税は492,500円、住民税は460,000円、合計952,500円です。

iDeCoは、積み立て時の所得控除に注目が集まりがちです。そのため、積極運用を避け、元本確保型商品を選ぶ方もいらっしゃいます。しかし、このケースでは、元本のみで1116万円です。退職所得控除は、600万円ですから課税所得は258万円です。所得税は160,500円、住民税258,000円、合計418,500円です。

前述の条件で、月々62,000円を15年間積み立てた際の税金のメリットは合計2,232,000円ですから、出口で418,500円の税金を払っても、メリットの方が大きいですが、利益もでていないのに課税されることもあるのだということを理解したうえで運用商品は選ぶべきでしょう。

参考までに同じ条件で、変額保険を一時所得で受け取ったら税金がどうなるでしょうか?

1,520万円から保険料1,116万円を差し引きそこから特別控除を差し引き、2分の1をするので177万円がその他の所得と合算されて課税されます。もし一時所得以外に所得がなければ、ここにかかる所得税は88,500円、住民税は177,000円、合計265,500円となります(計算を分りやすくするため、基礎控除等はしていません)。また年金保険は一時所得として何年かに分けて受け取りをするなど、受け取り方を選べる商品もあります。

いずれの受け取り方であっても、個人年金保険は運用益が出ていない場合は、もうけはありませんから、課税はありません。

iDeCoを一括で受け取った際の税金を課税口座で投資信託を積み立てた場合とで比較してみましょう。

15年間の運用益は420万円ですから、20.315%の税金は853,230円です。課税口座で売り買いをすると都度税金が引かれるので、計算は変わりますが、比較のためとイメージしてください。

NISAで仮に同じ運用ができたとすれば、運用益は非課税ですから、NISAの方が税制面では圧倒的に有利です。ただし、所得控除で得た223万円のメリットはNISAでは得られません。

やはりここでも、運用益が出た場合の話であって、運用がうまく行かなければNISAは何のメリットもありません。iDeCoの所得控除で得た税のメリットは運用成果にかかわらず確実に得られます。

iDeCoが、魅力的な制度であることに変わりはない

iDeCoを会社から受け取る退職一時金と同年で受け取ると、「ひとつの退職金」としてiDeCoの重複する期間における退職所得控除が相殺されて利用できなくなるお話はこれまでも何度かしてきました。またiDeCoを退職金の前や後で受け取っても一定期間はやはり「ひとつの退職金」として退職所得控除が利用できなくなることもお伝えしてきました。

もともと確定拠出年金制度は、企業型DCとしての普及が進んだので、企業の退職金制度のひとつということで制度が整備されてきました。会社が掛金を拠出する企業型DCは、それでも良いと考えますが、個人が任意で加入するiDeCoの場合、掛金の拠出は個人のお財布から行われるので、退職金としての扱いは少し無理があるのではないかと筆者は考えています。

退職金制度がない会社にお勤めの方にとっては、退職所得控除が他の制度と干渉し合う点は関係のないことかも知れませんが、前述のように運用がうまく行かなかった際も税金が発生してしまう可能性がある点などは、自らが運用する私的年金制度としては望ましくないのではないでしょうか。もし課税を嫌い、掛金の額を抑えて本来必要な老後資金を創れなかったとなれば、本末転倒です。

iDeCoは、魅力的な制度であることに変わりはありません。なるべく早く始めて長く続けるのが原則です。掛金や運用商品の選択は、必要とする老後資金から割り出して実行するという点も変わりません。

しかし、拠出時の税制優遇、運用益非課税、出口での課税ということをしっかり理解した上で活用しないと、本来の目的が達成できなかったり、偏ったイメージが先行し充分活用できなかったりすることもあるのではと懸念しています。

iDeCoは単純な仕組みではありませんが、今回の記事が少しでもお役に立てましたら幸いです。

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