はじめに
なぜ金は「現金が必要になるまで売らなくていい」のか
こうした環境では、政策や関税、制裁といったルール変更に、価格が大きく左右されます。その結果、短期的な値動きは荒くなりがちですが、株式や債券とは異なる動きをしやすい分散投資としての意味があります。
長期投資の視点で見たとき、コモディティは「利益を得るための主役」ではありません。むしろ、ポートフォリオ全体の耐久性を高めるための「保険」に近い存在です。
株式は成長を取りに行く資産であり、債券は景気や金利変動のクッションになりやすい資産です。そこにコモディティを少し加えることで、インフレや地政学リスク、供給ショックのように、株と債券が同時に傷みやすい局面で、資産全体の落ち込みを和らげる効果が期待できます。特に金は、中央銀行という構造的な買い手が存在する点で、通貨の信認が揺らぐ局面に反応しやすい性格を持っています。
急騰してくると「金の利益を確定した方が良いか」という質問もよく受けますが個人的には現金が必要になるまではそのまま保有で良いと思います。なぜなら、金を支える需要の構造(中央銀行の国家レベルでの資産配分変更)が、現状では極めて崩れにくいと判断しているからです。
金の場合、その中心にいるのが各国の中央銀行です。近年、世界の中央銀行は一貫して金を買い増しています。これは「相場が上がりそうだから買っている」という投資行動ではありません。準備資産の構成を見直す、国家レベルでの資産配分の変更です。ドルやユーロといった通貨は、発行国の政策や国際関係の影響を強く受けます。一方、金はどの国の債務でもなく、誰かの約束でもありません。現物としての価値が存在し、国境を越えて価値が認識される資産です。この性質が、制裁や資産凍結リスクが現実味を帯びてきた世界では、極めて重要になっています。
加えて金は地上在庫が多い資産だと言われますが、新規の供給は年間で限られています。鉱山開発には時間もコストもかかり、急に生産量を増やすことはできません。そこに「価格に左右されにくい買い手」が恒常的に存在することで、相場が崩れにくい土台が形成されます。さらに、金の構造的需要は中央銀行だけではありません。新興国を中心に、個人の資産保全手段として金を保有する文化が根強い地域も多く、宝飾需要や小口の投資需要も、景気循環とは別のリズムで存在しています。これもまた、株式のように一斉にリスクオフで売られにくい理由の一つです。
このように構造上の需要があるため、短期の上下に振り回されにくい視点を持ちやすいという利点があります。
銀高騰の裏側――貴金属と工業用資源の二面性

銀についても簡単にお伝えしておきましょう。値動きを見て、「金のついでに上がっている」「出遅れ調整だろう」と感じた方も多いかもしれません。背景には、金融資産としての顔と工業用資源としての顔が同時に意識され始めた、という非常に銀らしい構造があります。
前提として、銀は金と同じ貴金属でありながら、投資としての性格はかなり異なります。金が「通貨・準備資産」に近い存在なのに対し、銀は価格形成の中に実需(工業需要)が大きく組み込まれています。銀は太陽光パネル、EV、半導体、電子部品など、脱炭素や電動化と密接に関わる分野で不可欠な素材で、「景気が多少鈍っても減りにくい需要」が存在しています。
また、銀は工業用途で消費されると回収されにくく、供給の面でも、銅や鉛、亜鉛などの副産物として採掘されます。つまり、銀価格が上がったからといって、銀だけを狙って生産量を急増させることが難しいという制約があります。
結果として、ひとたび資金が流れ込んだ際は値動きが加速し、「急騰」という形で表れます。
ここまでを投資家の言葉に直すと、銀は金よりも景気・テーマ・資金フローの影響を強く受ける資産だということです。だからこそ、上がるときは速い一方で、下がるときも速い。金のように中央銀行という構造的な買い手がいるわけではなく、価格の安定性は高くありません。
そのため銀は「金の代替」として同じ感覚で扱わない方が良いという点は把握しておいていただければと思います。