はじめに
最近、国産ミカンの不作が一部メディアで報じられ、話題になっています。2017年12月の平均卸値は21年ぶりの高値となっており、私の経営するフルーツギフトショップでも仕入れ原価の上昇をひしひしと実感しています。
このニュースについては、「農業の高齢化が問題」「天候に恵まれなかった」「需要が殺到したからか」など、さまざまな見方がなされています。ミカン不作問題の本質は何なのか。実際に商品として取り扱っている立場から、現状について解説したいと思います。
不作の原因はどこに?
フルーツが不作になる要因は、ミカンに限らず、1つでなく複合的であるケースが多いです。
たとえば、2016年は一部の地域において梨の価格が高くなりました。これは雨が少なく、高い気温でうまく育たなかったことに加え、台風が直撃して実が落ちてしまったことが原因でした。
フルーツは工業製品ではなく、自然の中で栽培されるので、供給量と価格については予測が難しい部分があります。ただし、今シーズンのミカン不作は、2016年から“ある程度”予想ができていました。
ミカンは豊作と不作を交互に繰り返す特性を持っており、たくさん実をつけた「表年」の翌年は、あまり収穫ができない「裏年」となるのです。これを「隔年結果」といいます。
2017年は裏年にあたるので、冬に出回るミカンの量が前年を下回るのは想定内だったわけです。加えて、秋の天候不順や、老木の更新が思うようにできなかったことなど、複数の要因が重なったのが原因、と専門家は見ているようです。
深刻なのは“右肩下がりの生産量”
つまり、今シーズンのミカンの不作はいくつかの要因があるものの、周期的な要素が強く、逆に来シーズンは豊作が期待できる可能性は高いわけです。実は、国産ミカンにとってより根源的な問題は、これとは別のところにあります。
下のグラフは、1973年以降の国産ミカンの収穫量を表したものです。隔年で豊作と不作を繰り返しながら、長期トレンドとしては右肩下がりになっていることが読み取れます。
ピークだった1975年(327万トン)と比較すると、足元は4分の1にまで収穫量が減っています。背景にあるのが、ミカン農家の高齢化と後継者不足です。
生産者の減少や高齢化に伴って老木の更新が進まず、生産量が低下すると、品薄感から価格は上昇します。すると、割高感から消費者の間で“ミカン離れ”が進む。そうすると今度は、さらに生産量が減って……という「負のスパイラル」に陥っている可能性があります。
実際、総務省の家計調査によれば、国民1人当たりの年間購入量は1980年当時、ミカンが14.5キログラム、バナナが3.7キログラムでした。これが30年後には、バナナが2倍に増えた一方、ミカンは3分の1に減っています。
3人家族なら500円強の負担増
例年であれば、国産ミカンは1キログラム当たり250~300円という卸値で取引されていましたが、今シーズンは同338円まで上昇しています。こうした報道を受けて、ネット上では「これじゃ、もう買えない」「今年はコタツからミカンが消えてしまう」という声が広がっています。
足元の卸値高騰は、実際の販売価格にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。年末年始の時期に販売されているミカンは、1個100グラム前後のものが多いです。卸値が1キログラム338円だとすると、小売店での販売価格はおおむね同600円前後になります。
1日に1人がミカンを1~2個食べるとすると、3人家族の場合、50個入りのもの(5キログラム)を買えば2週間は持ちます。となると、小売店での購入価格は3,000円前後。例年に比べると購入1回当たり500~600円の値上がりになります。家計を預かる立場の方にとっては、買い控えの理由になりうる金額です。
販売価格への転嫁に悩む小売り
ある小売り大手では、販売価格への転嫁は卸値上昇分の一部にとどめたうえで、バラ売りでの販売を強化するなど、顧客に負担感が出ないよう努力しています。その甲斐あってか、これまでのところ顧客の買い控えは起きていないといいます。
一方、熊本県内のあるフルーツショップでは、事前に年末セール用のチラシを用意してしまっていたため、卸値の高騰に合わせて販売価格を変更することができず、やむなく価格を据え置いて販売しているそうです。
ミカンの品薄は今後もしばらく続く見込みで、企業努力だけでは吸収しきれない可能性も出てきそうです。販売価格への転嫁が進めば、消費者のさらなるミカン離れを誘発しかねません。ただでさえ、構造的な負の連鎖に悩んでいる国内のミカン産業にとっては厳しい状況です。
日本人と温州ミカンの関係は、約400年前に中国から九州に伝わった柑橘の種から偶然発生したことで始まったといわれています。その後の品種改良や栽培技術向上により、今や国産ミカンは紛れもなく世界一の品質となり、日本の文化の一部になった感さえあります。
そんな国産ミカンが置かれている現状は、普段フルーツを扱う立場からすると、残念なものに思えて仕方がありません。ミカンの価値を多くの消費者が再認識するための仕掛けづくりを進めていく必要がありそうです。