はじめに
新しい年が明けてから1か月以上が経ちました。「今年こそ家計を整えたい」と正月に立てた目標は、いまも続いていますか?
家計の実態は想像以上に多様です。総務省の家計調査によると、二人以上世帯の貯蓄現在高は平均1,984万円に対し、中央値は1,189万円と差が大きく、世帯によって貯蓄の伸び方に幅があることが示されています。
収入が増えても自動的に貯蓄が増えるわけではなく、日々の行動や意思決定の積み重ねが結果を左右します。
新年の高揚感が落ち着き、日常のリズムが戻ってきた「今」こそ、家計と心を冷静に整え、行動を変える絶好のチャンスです。ここから、行動経済学が示す“家計が変わりにくい理由”と、その乗り越え方を解説します。
なぜ家計は変わらないのか──行動経済学が示す「現状維持バイアス」
行動経済学では、人が現在の状態を変えることを避けようとする心理を「現状維持バイアス」と呼びます。家計の固定費や契約を「見直したほうがいい」と思っていても行動に移せないのは、このバイアスが強く働くためです。
そこには「今のままで困っていない」「選び直すのが面倒」「失敗したくない」といった感情が重なります。これらはすべて、人の脳が変化をリスクと捉え、現状を守ろうとする自然な反応です。
一方、このバイアス以外にも、家計の見直しが進みづらい理由には心理的な要因が隠されています。
お金の行動は“心のクセ”で決まる──潜在意識パターンと家計の関係
心理学者バンデューラが提唱した「自己効力感」は、「自分にはできる」という感覚が行動の出発点になることを示しています。逆に、「どうせ貯められない」「収入が高くないから無理」といった自己否定が強いほど、貯蓄や見直しといった行動を始めにくくなります。
さらに、収入が増えても貯蓄が思うように増えない背景には、「ライフスタイルクリープ」と呼ばれる現象があります。総務省「家計調査」でも、収入階級が高い世帯ほど支出額が大きくなる傾向が確認されており、収入の増加に合わせて生活水準が引き上げられていく構造がうかがえます。
つまり、家計を変えるには「行動を始める心のスイッチ(自己効力感)」と「収入が増えても支出が膨らむクセ(適応)」の両方に向き合う必要があるのです。では、こうした"心のクセ"にどう向き合えばよいのでしょうか。鍵となるのは、自分への「問いかけ」です。
未来を動かす“問い”を使う──家計行動を変えるセルフワーク
心理学の分野では、人の行動は「出来事そのもの」ではなく、「それをどう解釈しているか(認知)」によって大きく左右されると考えられています。こうした考え方は、認知行動療法(CBT)の基礎にもなっており、自分の考え方や判断のクセを見直すことで行動が変わる可能性があることが示されています。
家計でも同様に、支出の理由や目的を問い直すことで、自分がどのような基準でお金を使っているのかが見えてきます。
ここでは、家計行動を変えるために有効な3つの問いを紹介します。
①この支出は「私の未来に必要か」
たとえば、解約しようと思いつつ半年以上放置している月額980円のサブスクや、「いつか使うかも」と残している複数のクレジットカードの年会費は、本当に今の自分の生活を豊かにしているでしょうか。一方で、資格取得の講座費用や子どもの学習費のように、将来につながる支出もあります。目的で考えることで、削るべき支出と守るべき支出が見えてきます。
②今後3か月で増やしたいお金、減らしたいお金は具体的に何か
「節約したい」「いつか貯めたい」というぼんやりした願いではなく、「3か月で固定費を1万円減らす」「旅行積立を月5,000円増やす」といった具体的な目標に落とすことで、行動が現実的になります。
③この出費は「不安」からか「必要性」からか
たとえば、将来への不安から必要以上に保険を増やしていないか、疲れているときに気分転換としてネット通販をしていないかを振り返ってみましょう。
行動ファイナンスの研究では、金融に対する不安やストレスが強いほど、家計管理や貯蓄に関する意思決定がうまくいきにくくなる傾向が示されています。こうした心理状態は、計画性の低い支出や後悔につながる行動と結びつきやすいことが分かっています。
こうした問いを習慣的に使うことで、自分のお金の使い方のクセに気づき、意思決定の基準が少しずつアップデートされていきます。では、こうした気づきをどう"習慣"として定着させればよいのでしょうか。