好調な経済やトランプ大統領の減税政策に支えられ、NYダウ平均株価は史上最高値を更新し続けています。2018年もこの傾向は続くのでしょうか。

アメリカの株式市場に詳しいJ.P.モルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト 重見吉徳氏に、今後の米国株の行方と、個人投資家が取るべき投資戦略について話を伺いました。


力強い相場は2018年前半までは続く可能性が高い

—— 2017年のアメリカの株式市場を振り返って、どんな1年だったでしょうか。

重見(以下、同様): どの市場参加者にとっても快適で株価が上昇しやすい「適温相場」が続いたことで、1年を通して強い値動きとなりました。特に年後半には力強い上昇がみられたのはご存知の通りです。この上昇の背景には3つの要因があります。

第一に、アメリカの実体経済の堅調さがあります。去る2015年と16年はドル高や原油価格下落の影響で景気はやや低迷しましたが、その反動となる循環的な回復がありました。

第二に、金融政策です。アメリカは2015年末から金融引き締め局面に入っていますが、17年の利上げペースは緩やかに推移しました。経済が強いのになぜ利上げがゆっくりだったのかというと、物価の上昇が鈍かったために思い切った引き締めができなかったからです。景気は拡大し、金融引き締めはスローペースという状態は株式などのリスク資産にとっては強い追い風となります。

第三に、アメリカの税制改革への期待です。年末の上下両院を通過した税制改革法案は、実現すれば約30年ぶりとなる大規模な税制改革となります。法人税率や個人の所得税率の引き下げなど、今後10年で1.5兆ドルに達する巨額減税となる見込みで、企業業績や個人消費を強力に後押しするという期待が株価を押し上げていました。

—— この強い相場は、2018年も続くのでしょうか。

現段階で見通しが利く夏ごろまでは、実体経済は強い状況は続きそうです。金融政策についても、2月に就任するFRB(連邦準備制度理事会、アメリカの中央銀行にあたる)の次期議長のパウエル氏は利上げに対して慎重な姿勢を示しており、前任のイエレン氏と同じ歩調を取るとみられます。金融政策を決定する12月のFOMC(連邦公開市場委員会)でも利上げに反対する理事が2人いたことからも、急に利上げペースを速めるようなことは考えにくいでしょう。

そしてなにより、大規模減税が期待から実行のフェーズに移ります。これが企業の設備投資や個人消費を押し上げ、海外に留保している利益をアメリカ国内に戻す動きとも相まって実体経済をさらに押し上げることになりそうです。特に法人減税が企業業績に与える影響は大きく、企業の利益を8-10%程度押し上げると試算されます。

企業は手元に残った利益をどうするかというと、税制改革を可否を巡り17年は様子見状態にあった設備投資を実行に移すほか、自社株買いや増配といった株主還元策に充てることも考えられます。企業業績拡大への期待が持続し、さらに株主還元が充実するとなれば、株価はさらに上を目指しておかしくありません。

好材料は織り込んでいるのに、株価が上がる理由とは

—— しかしこうした状況は昨年から予想されていることなので、株価にはもう織り込まれているのではありませんか。

おっしゃる通り、アメリカの株価はすでにかなり割高な水準まで上昇しています。もう株価には織り込み済みという意見は多く聞かれますし、実際に織り込まれているとは思います。それでも17年末のマーケットを見ていると、ニュースが出るたびに株価が反応しており、この現実は無視できません。

織り込んでいるはずなのにさらに株価が上がっていく要因としては、株式市場が過熱していることがあげられます。バブルとまでは言い切れませんが、それに近いところにいるのは確かで、こうした状況では株価が割高、つまりは将来の利益の分まで織り込み済みであってもまたも買われる展開になりやすいのです。

もうひとつの要因として、システム取引の台頭があげられます。システム取引は組み込まれたアルゴリズムに従って自動的に売買を執行する仕組みで、株価に影響を与えそうなキーワードに反応して瞬時に大量の注文を執行させています。おそらくtax reform(税制改革)やpass(通過)といったキーワードに反応するように仕込まれていて、人間は「織り込み済み」と裏を読もうとしても、機械はある意味単純なために、こうしたニュースで株価が一方向に大きく動く傾向が強くなっています。こうした取引が、株価を押し上げている可能性も考えられます。

—— 夏ごろまでは強い相場が続きそうとのことですが、秋以降はどうなるのでしょうか。

年後半の先行きは不透明です。17年で忘れてはならないのは、米国経済だけが勢いが強かったわけではなく、中国も5年に一度の党大会に向けて景気を刺激しましたし、欧州も政治の不確実性がなくなって高成長となり、「3極同時高成長」となった点です。やはり景気は循環しますから、現在のように景況感が拡大している状況下では、その強いペースを長く維持するのは難しいものです。その実体経済に影響を与えようとする金融政策を考えると、米国のみならず、中国も引き締め姿勢を鮮明にしていますし、欧州も引き締めを目指してします。ですから18年の最大かつあり得るリスクは、米欧中3極の景気が同時にスローダウンすることでしょう。もちろん、ここまで極端に考えずとも少し勢いが鈍化しただけでも株価は上がりにくくなるもので、年後半には株価の上昇ペースが鈍ったり、そのまま調整局面入りしたりすることは十分考えられます。

また今の相場を牽引してきた半導体関連セクターは長期ではまだまだ有望ですが、短期的にはこれまでの旺盛な投資のために小休止をし、調整局面入りする可能性もあるでしょう。中国の過剰債務も気になりますし、北朝鮮や中東情勢にもリスクはくすぶっています。こうした要因がトレンド転換の引き金を引く可能性もあるでしょう。

NYダウは2万2000ドルから2万7000ドルぐらいを中心レンジとして、リスクシナリオでは2万1000ドル程度まで下げる局面もありえると考えています。

ただ、現状は住宅投資や企業の設備投資が過剰に積み上がっている状態ではないので、金融危機レベルの深刻な下落に発展する心配は少ないように思います。それでも、投資家は気持ちを切り替え、相場の局面変化がいつやって来てもいいよう警戒し、必要に応じて準備しておく必要があるでしょう。