はじめに

ネットには年金関連の記事が次々と表示され、本屋には老後資金の本が平積みになっている。情報はこれでもかと目に入るのに、いざ「自分はどうする?」となると、手が止まる——。

老後資金が足りるのか、働き続けられるのか、夫婦の生活設計はどうなるのか。本記事では、定年が見えてきた50代後半〜60代前半に特有の不安がなぜ生まれるのか、その背景を整理しながら、これからの選択を考えるための視点をまとめます。


50代後半で不安が「漠然」から「具体」に変わる理由

50代前半では、「老後が心配」「お金が足りるか不安」といった、どこか輪郭のぼやけた不安を抱いている人が多いようです。

一方、50代後半になると、定年年齢や年金受給開始時期、退職金の目安などが具体的な数字として見え始め、不安は一気に現実的なものになります。

定年や年金といった制度の区切りが見えてくると、働き方や支出の見直しが「いつか」ではなく「いつまでに」の課題になるからです。ただし、情報は揃っていても、現実が近づくにつれて「決める項目」が増え、判断が重く感じられやすい時期でもあります。

相談を受ける中で、印象に残っているケースがあります。50代後半で早期退職を選び、再就職も視野には入れているものの、いつから、どのように働くかを決めきれずにいる方でした。相談のきっかけは、企業型DCから移換したiDeCo(個人型確定拠出年金:自分で積み立てて老後資金を準備する制度)の運用についてです。

iDeCoは、収入や公的年金の加入状況によって活かし方が変わる制度です。そのため、就労の有無や働き方が定まらない段階では、「どう活かすのがよいのか」を判断しにくい状態でした。

話し合いを重ねる中で、その方は「まずは3年後、60歳をひとつの出口として考えてみる」という整理にたどり着きました。その間は運用を続ける前提で、働き方については無理に決め切らず、状況に応じて見直す余地を残す。すべてを一度に決めるのではなく、区切りを仮置きすることで、ようやく次の判断ができる状態になったのです。

これは判断力が落ちたからではありません。これまで先送りできていた選択が、期限付きの課題として同時に現れるためです。

判断が重くなる理由は「決めることが増える」から

たとえば、定年後も働くつもりでいても、次のような判断が同時に浮かび上がります。

・あと何年、今の収入が続くのか
・再雇用や継続雇用を選んだ場合、収入はどれくらい下がるのか
・年金(老齢年金:一定年齢から受け取る公的年金)だけで生活できるのか

それぞれは単独で考えられそうでも、実際には互いに影響し合います。働き方を決めなければ収入が定まらず、収入が見えなければ生活費の見直しに踏み切れない…。

さらに「年金を繰り下げれば受給額は増えるが、その間の生活費をどう賄う? 退職金を取り崩す? なら何歳まで働けば安心?」といった堂々巡りに陥りやすくなります。こうした「連動する判断」が増えることで、考えれば考えるほど決断が先送りになりやすくなります。判断が止まるのは、情報不足ではなく、考えるべき条件が一度に増えているからです。

「お金」だけではない、定年前後に広がる不安の正体

定年が近づくと、不安は老後資金だけにとどまりません。働き方が変われば生活リズムが変わり、人との関わり方も変わります。

フルタイム勤務が終わることで、1日の使い方や役割意識が揺らぐ人もいます。また、夫婦で過ごす時間が増えることをきっかけに、「これからの家事分担をどう考えるか」「お互いにどこまで働くのか」といった話題が避けて通れなくなるケースもあります。

平日の昼間、家にいる夫に妻が自分の居場所を取られたように感じる——そんな互いの戸惑いが詰まっていることもあります。

こうした生活全体の変化が重なることで、不安は「お金の問題」として表面化しやすくなります。しかし実際には、生活の組み立て方そのものを見直す時期に入っている、と捉えることもできます。

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