はじめに
現在、日本人の13人に1人がLGBT(性的マイノリティ)だといわれています。これは国民全体に占める左利きの人やAB型の人とほぼ同じ割合だそうです。
2015年に渋谷区や世田谷区などの自治体が同性パートナーシップ制度を導入したのを皮切りに、LGBTの社会的な認知度は大きく向上しました。死亡保険の受取人に同性パートナーを指定できる生命保険や、同性パートナーとペアローンを組める住宅ローンが次々と登場しています。
ただ、自治体の発行するパートナーシップ認定書には法的な拘束力はありません。そのため、配偶者なら当たり前のものとして享受できる権利が、LGBTのパートナーでは受けられないことがまだ多くあります。
そうした中で、ネット証券大手のマネックス証券が証券会社としては初となるLGBTカップル向けの「パートナー口座」サービスを開始しました。いったい、どんなサービスなのでしょうか。
LGBTが2人で資産管理できる口座
マネックス証券が昨年12月からサービスを開始した、LGBTカップル向けの「パートナー口座」。クレジットカードの引き落とし先をパートナー口座に設定することで、2人の支払いを1つの口座でまとめて管理できるのが特長です。
一般的なクレジットカードには、契約者本人に安定した収入があれば、収入のない専業主婦や子供でも使用できる「家族カード」が存在します。しかし、カード会社の多くは家族カードの発行対象を法律上の家族のみに限定しているため、法的な婚姻関係にないLGBTカップルが家族カードを作るのは難しい状況でした。
マネックスのパートナー口座を開設するには、あらかじめマネックス証券の総合取引口座を開設したうえで、「マネックスセゾンカード」を発行しておく必要があります。このカードを生活費の支払いに利用すれば、2人で一緒に資産管理ができるようになります。
実は、現在展開しているサービスは第1弾に過ぎません。LGBT向けサービスを考案したマーケティング部トレードステーション推進室の葉智慧子さんは、現在のサービスに加えて「今後は、1つの口座の中で投資商品をパートナーと共有できることを目標に挑戦していきたい」と意気込みを語ります。
社内公募のビジネスコンテストから誕生
そもそも、なぜマネックスはLGBTカップル向けのサービスを始めようと思ったのでしょうか。同社広報部の松崎裕美マネジャーは次のように話します。
「金融機関として法律的な観点を考慮したサービスを提供していますが、多様性を考えると法律婚の方だけを対象にしたサービスを展開していくのは今の時代に合わないのかもしれない、という考えがありました」
同社では、昨年から社内規定で配偶者の概念を拡張して事実婚を認めるなど、ダイバーシティについて考えてきました。その延長線上で、実際にLGBTの方に話を聞く機会があったそうです。その際、社員1人ひとりがALLY(アライ・LGBTの理解者または支援者)になる1つのきっかけになればという思いが芽生え、昨年8月に社内公募のLGBTビジネスコンテストを開催しました。
同社の松本大社長のほかに、NPO法人グッド・エインジング・エールズの柳沢正和さん、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さんなどの知見者やLGBTの人が審査員として参加しました。そこで優勝したのが、葉さん率いるチームの「LGBT向けパートナー口座サービス」でした。
LGBT向けサービス拡大の起爆剤?
LGBTに向けたサービスでは、「どちらかが亡くなった後にパートナーに資産を残すようなサービスはすでにありましたが、一緒に資産を形成していくサービスはこれまでになかったのではないでしょうか」と松崎さんは話します。
収益が期待できるかといえば、需要はそれほど大きくないかもしれません。ただ、「企業として始めているということが通過点」(松崎さん)。今回のサービスがスタートしたことによって、他の証券会社や金融機関からもLGBTに向けたさまざまなサービスが展開されることを期待していると言います。
ビジネスコンテストの審査員を務めた土井香苗さんは、「このサービスがすべての人の婚姻の平等の実現に向けた社会の機運の1つとなることを期待しています」とコメントを寄せています。
同社が始めたサービスは、まだ第一歩に過ぎません。しかし、LGBTの支援拡大や認知向上を後押しする大きな一歩になりそうです。
(文:編集部 土屋舞)