はじめに

60代の家計で起きやすい「取り崩しのズレ」

こうした状況の中で、60代の家計にはいくつか共通したズレが生じます。

一つ目は、年金と資産を別物として扱ってしまうことです。年金は生活費、貯蓄は「いざという時のため」。そう分けると、貯蓄は使われないまま温存されます。本来は、両方を合わせて老後の収入として捉える必要があります。

二つ目は、取り崩しを形式化しすぎることです。毎年同額を取り崩すと決めると安心感はありますが、支出や環境の変化を反映しにくいです。必要な年に使えず、余裕のある年に減らすという逆転も起こります。

三つ目は、「減らさないこと」が目的になってしまうことです。「旅行に行きたいけど、貯金を減らしたくない」「孫に何かしてあげたいけど、将来が不安」。残高を守る意識が強まりすぎると、「この資産でどんな生活をしたいのか」という視点が後回しになります。資産はあるのに、選択肢が狭まっていく感覚を持つ人も少なくありません。

老後家計は「使い切る前提」で再設計する

取り崩しの不安を小さくするには、「減らさない工夫」よりも、「使い切る前提での整理」が有効です。もちろん、資産を次世代に引き継ぐことを目的とする家計設計とは前提が異なります。

まず、支出を三つに分けて考えます。


基本生活費:年金で賄う部分
調整費:貯蓄や資産から補う部分
例外費:医療や住まいなど突発的な支出


こう分けると、「どこまでが年金で、どこから資産を使うのか」が見えやすくなります。例えば、月25万円の支出がある場合。年金が月20万円なら、基本生活費20万円、調整費5万円(年間60万円)という形で整理できます。60万円×20年分=1200万円が、調整費として必要な資産の目安、という見方もできます。

次に、取り崩しを金額ではなく役割で考えます。「毎年いくら」ではなく、「この資産は何年分の調整費を担うのか」。役割が決まると、使う判断が感情から少し離れます。

そして最後に、見直し前提で設計すること。そのための一つの方法が、キャッシュフロー表(将来の収支を時系列で整理する表)を作ることです。残りの人生の収支を一度見える形にすることで、不安の正体が整理されることがあります。ただし、老後家計に完成形はありません。定期的に、家計、健康、制度の変化を確認して修正をする。その柔軟さが、長期的な安心につながります。

投資は学べても、取り崩しは学ぶ機会がほとんどありません。だから迷うのは、自然なことです。大切なのは、「減らさないこと」ではなく、「自分の生活に合った使い方を考え続けること」。増やす時代から、使い切る時代へ。老後家計の再設計は、そこから始まります。一人で悩まず、専門家に相談することも選択肢の一つです。

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