はじめに
わたしが前回この連載でサンリオ(8136)を取り上げたのは、2月12日に発表された第3四半期決算が予想以上に強く、株価が「息を吹き返した」タイミングでした。あのときは、「決算後のバタツキが落ち着いたら、ゆっくり買いポイントを探りたい」と書きましたが、実際、分割後の上昇を期待して少しずつ買いためていました。
前回記事:株価急落から一転、サンリオが「復活」した理由。過去最高益と株式分割で狙う“次の成長シナリオ”とは?
そして、2026年4月1日、サンリオは1株を5株に分割する株式分割を実施。投資家層の拡大を目的とした、会社側の前向きな施策です。ところが、分割後の株価は期待とは裏腹に冴えない展開が続いています。日頃から「損切りは事務的に」と声高に訴えている手前、安値を割り込んできたら損切りを検討せざるを得ない状況です。
しかしどうにも腑に落ちません。あらためて「なぜ株価が上がらないのか」「投資家はどう動くべきか」を考えてみたいと思います。
株価低迷の原因① 期待値と決算内容の「温度差」
好業績なのに株価が上がらない。サンリオは典型的な「業績と株価のギャップ」に悩む銘柄です。2025年8月には上場来高値の8,685円(株式分割前)をつけましたが、それ以降はだらだらと下げ続け、2026年1月には4,500円(株式分割前)まで下落。2月の決算発表でいったん持ち直したものの、その後も1,000円台(分割後換算)での低空飛行が続いています。
なぜか。株式市場では、企業の実績は単純な増収増益だけでは評価されず、事前に織り込まれていた成長期待を上回れるかどうかが重要になります。つまり、サンリオは「良い決算」を出し続けているにもかかわらず、市場が期待する「もっと良い決算」に届かないという状態が続いているのです。
業績予想を上方修正したにもかかわらず市場コンセンサスに届かず、株価は1,000円を割り込む大幅調整となる局面もありました。「良い決算=株価上昇」とはならない。これは株式投資の難しさを改めて思い知らされる展開です。
株価低迷の原因② 日中関係の悪化という外部リスク
業績面の問題だけではありません。外部環境にも不安材料があります。日中関係の悪化で中国政府が自国民に日本への渡航自粛を呼びかけ、中国人観光客が大幅に減少するという悪材料が重なりました。
中国人観光客が減ればテーマパークの入場者数だけでなく、キャラクター商品の売上にも大きな影響を及ぼします。さらに中国事業が売上全体の2割弱を占めるサンリオにとって、日中関係の悪化は業績悪化要因となります。
前回の記事で、「インバウンドが減っても国内ファンが強い」と書いたのは本当のことです。しかし中国リスクは、インバウンド消費だけの問題ではありません。中国国内のライセンス事業や商品販売まで影響が及ぶとなれば、話は別次元になります。
株価低迷の原因③ 分割前後の需給の大乱れ

注目したいのが、分割基準日(3月31日)直前の3月27日週に起きた異変です。東京証券取引所が公表している「銘柄別信用取引週末残高」(2026年3月27日申込現在)の公式データを確認すると、この週のサンリオの売り残が前週比①+3,825,200株と急増し、合計②4,356,100株に達していました。同時に信用倍率は34倍台から2倍台へと激減しています。
まず、売り残急増の主な理由として考えられるのが「つなぎ売り(クロス取引)」です。3月27日(金)はサンリオの権利付き最終日。株価の下落リスクを負わずに優待と配当の権利だけを取得したい投資家が、現物買いと信用売りを同時に行うつなぎ売りに殺到した結果です。こうしたつなぎ売りは権利落ち後に「現渡し」で決済されるため、市場で株を買い戻すわけではなく、株価の押し上げ要因にはなりません。次回の信用残データでは売り残が急減し、信用倍率が再び高水準に戻る可能性が高いでしょう。
ここからはわたし個人の推論ですが、公式データの内訳を見ると少し気になる点があります。売り残4,356,100株のうち、一般信用が③393,400株、制度信用が④3,962,700株と、実に9割以上が制度信用なのです。
つなぎ売りで優待を狙う個人投資家の多くは、逆日歩リスクのない一般信用を使うのが一般的です。制度信用でのつなぎ売りは逆日歩が発生するリスクがあるため、優待取りには不向きとされています。そう考えると、制度信用の売り残の大部分は、純粋に株価の下落を見込んだ本格的な空売りが相当数含まれているのではないか、というのがわたしの見立てです。
この推論が正しければ、話は少し変わってきます。つなぎ売りと違い、空売りはいずれ市場で「買い戻し」が必要になります。つまり、この制度信用の売り残が解消されるタイミングは、将来の株価反発要因になり得ます。一方で解消されるまでは、重い需給の重しとして株価にのしかかり続けることになります。