はじめに

転職の際、新しい仕事の準備や引っ越しに追われ、つい後回しにしてしまうものがあります。確定拠出年金(DC)の手続きです。「後でやればいい」という油断が、数千円の手数料負担や、将来の受給時期の遅れにつながってしまうかもしれません。

前回記事:【3.6万人調査】確定拠出年金の「掛金上限」を知らない人が過半数? 調査で見えた「意外な事実」

DCは、転職しても資産を持ち運べる「ポータビリティ」のある制度です。ただし、企業型DCの加入者資格を失った後は、原則として6か月以内に、iDeCoや転職先の企業型DCへ資産を移換する必要があります。制度としては持ち運べる仕組みになっていますが、自分で手続きをしなければ、資産は移換されません。ここが、転職時のDCで最も大事なポイントです。


移換しなかった人は2割――「知らなかった」が最大の理由

確定拠出年金3万6000人調査によると、転職経験者のうち、転職後にDC資産の移換を行わなかった人は2割にのぼりました(図表1)。その理由として最も多かったのは、「やり方がわからなかった」「ルールを知らなかった/自分で手続きをすることを知らなかった」という回答です。

図表1 転職をしたがDC資産の移換作業を行わなかった割合とその理由

手続きをしないと、自動移換になる

転職時に必要な手続きを行わないと、DC資産は国民年金基金連合会に自動的に移されます。これが「自動移換」です。

2025年3月末時点で、自動移換者は資産額0円の人を含めて約138万人、その資産額は約3,362億円にのぼります。転職者が増え、DCも普及する中で、こうした数字は毎年増加の一途をたどっています。

自動移換になっても「どこかで預かってくれているのなら、ひとまず大丈夫だろう」と思ってしまう人もいるかもしれません。しかし、「ひとまず大丈夫」と考えてしまうのは注意が必要です。自動移換には、次のようなデメリットがあります。

【自動移換のデメリット】
運用停止: 資産は現金化され、運用収益を一切得られなくなります
コスト発生: 自動移換時に4,348円、その後も管理手数料が毎月差し引かれ(月98円)、資産が目減りし続けます(2026年4月時点)
受給の遅れ: 自動移換期間は「通算加入者等期間」に算入されません。結果、60歳時点で受給できず、受け取り開始が後ろ倒しになるリスクがあります

つまり、自動移換は単なる「保管」ではありません。運用の機会を失い、手数料もかかり、将来の受給時期が後ろ倒しになる可能性もあるのです。

なぜ放置されてしまうのか

調査では、こうした不利益を十分に知らない人が少なくないこともわかりました(図表2)。在職中であれば、会社の担当者がサポートをしてくれたかもしれませんが、退職後は自分で書類を確認し、提出先を調べ、期限を意識して動かなければなりません。転職時には目の前に優先すべきことがいくつもあり、その中でDCの移換は後回しになってしまいがちです。

図表2 転職で企業型DCの資産を移換しないとデメリットが生じることを知っているか

もちろん、一度自動移換されても、後からiDeCoに加入したり、新しい勤務先の企業型DCへ資産移換の手続きをしたりすることで、資産を取り戻すことは可能です。ただ、そのためには書類のやりとりが必要になり、手続きの時期も自分で管理しなければなりません。転職から時間がたつほど、「前の会社でDCに入っていた」という記憶自体が薄れていきます。

実際、国民年金基金連合会の統計では、自動移換から移換完了までに1年以上かかるケースが多数を占めています。「落ち着いたらやろう」と思っていたことが、そのまま長い放置につながってしまうようです。

こうした問題に対応するため、2018年5月以降は、再就職先に企業型DCがある場合など一定の条件を満たせば、本人の手続きなしで自動的に資産を移換する仕組みが導入されました。これは前進ですが、自動移換者は引き続き増えているので、問題の解消には十分ではないようです。

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