はじめに

日経平均株価やTOPIXが過去最高値を更新し、積み立て投資を続けてきた人の資産は着実に増えています。一方で、物価や為替、退職給付制度などの前提も変化し、「増えているのに楽にならない」と感じる人も少なくありません。いま必要なのは、資産額だけでなく実質的な購買力で資産形成を考える視点です。


株高で資産は増えても、安心感が増えにくい理由

今週、日経平均やTOPIXは過去最高値を更新し、米国株も主要指数が高値圏で推移しています。指数に連動する投資信託を積み立ててきた投資家の多くは、評価額の増加を実感しているのではないでしょうか。「いつのまにか億り人」という言葉も浸透しています。

新NISAの普及もあり、投資がより身近なものになりました。「投資をしていてよかった」と感じる局面も多かったと思います。

一方で、資産が増えているにもかかわらず、以前ほどの安心感を持てないという声も増えています。むしろ、どこか落ち着かない感覚を抱いている方もいるようです。

これは個人の問題ではなく、環境の変化によるものではないでしょうか。

資産の増加ペース以上に、物価や制度、為替といった外部環境の変化が速くなっています。足元ではインフレの定着、円安の進行、教育費や生活コストの上昇が同時に進み、実質的な購買力という観点では「増えているのに楽にならない」という状況も十分に起こり得ます。

名目資産ではなく、実質価値で資産を捉える必要性が高まっています。さらに重要なのは、これが一時的な現象ではない可能性が高い点です。

退職金を前提にした人生設計は、すでに普遍的ではなくなっている

まず、戦後から続いてきた日本型のライフモデル、すなわち「雇用の安定と退職給付を前提とした人生設計」が構造的に変化しています。

厚生労働省の調査によれば、退職給付制度のある企業は2023年時点で74.9%となっています。また、その中でも年金形式で給付される企業は約3割にとどまり、多くは一時金中心です。かつてのように「長く勤めれば老後資金がまとまって支給される」という前提は、すでに普遍的ではありません。

この変化は、資産形成の設計そのものに影響します。退職金や企業年金は依然として重要な要素ですが、それを中核に据えた資金計画はリスクが高くなっています。

物価高と円安で、個人投資家を取り巻く前提は変わっている

日々の生活を見ても、その変化ははっきり表れています。

物価は上がり、外食や日用品、教育費など、生活に必要なお金は確実に増えています。円安の影響で、海外旅行や輸入品は以前よりもずっと高く感じられるようになりました。コロナ前には「少し頑張れば手が届く」と思っていたものが、今では気軽に選べなくなっています。

株主優待や配当を楽しみながら、株主総会に足を運ぶ。お気に入りの企業を応援しつつ、ちょっとしたお土産やイベント感を楽しむ。そうした個人投資家らしい楽しみ方もありました。しかしコロナ禍をきっかけに、株主総会の運営方法は変わり、総会土産を廃止する企業も増えました。もちろん企業側の合理化や公平性の観点から見れば理解できる面もありますが、個人投資家にとっては一つの楽しみが失われたことも事実です。

資産形成のスピードにも差が出始めています。投資をしている人、副業で収入源を増やしている人、SNSやデジタルビジネスを活用して若いうちから大きな資産を築く人もいます。

少し前までは、会社員として安定的に働き、少しずつ貯金を増やしていくのが王道のひとつでした。しかし今は、それだけでは物価上昇や社会の変化に追いつきにくくなっています。

つまり、これからの資産形成で重要なのは、「お金を増やすこと」そのものだけではありません。「変化に対応できる力」を持つことが、投資家としても生活者としてもますます大切になっていくのだと思います。

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