はじめに
百貨店株が、二極化しています。三越伊勢丹ホールディングス(3099)の株価は6月初めに約2年ぶりの高値を更新。一方で高島屋(8233)と大丸松坂屋を運営するJ.フロント リテイリング(3086)は、2月につけた高値からじりじりと水準を切り下げ、さえない値動きが続いています。同じ業界、同じインバウンドの追い風を受けているはずなのに、なぜ三越伊勢丹だけが“ひとり勝ち”しているのでしょう。直近の決算、月次、そして来期予想から、その理由を読み解きます。
利益の「向き」が三社三様
まずは足元の本決算を並べてみましょう。三越伊勢丹の2026年3月期の営業利益は800億円(前期比+4.9%)と増益。ところが高島屋の2026年2月期は営業利益535億円(前期比-6.9%)と5年ぶりの減益、J.フロント リテイリングも490億円(前期比-15.8%)と大きく減らしました。
売上の規模はどこもほぼ横ばい圏なのに、利益の向きは三越伊勢丹だけが上向きで、ほかの2社は下向き。なぜ三越伊勢丹だけが増益を守れたのか。理由を二段階で掘り下げてみます。
一強の理由1. 景気に左右されない「外商」という資産
3社が苦しんだのは、昨年に好調だったインバウンドの反動減でした。前年の2024年に1ドル160円超まで進んだ記録的円安と比べれば、2025年は円高に傾いていたこともあり、高額品の免税売上が落ち込みました。これが高島屋・J.フロントの利益を直撃し、高島屋は本業の国内百貨店事業の営業利益が249億円(前年比-12.9%)まで沈みました。インバウンドは“水もの”で、為替や訪日客数の波をまともに受けるのです。
対して三越伊勢丹が頼みにするのは、訪日客ではなく国内の富裕層、なかでも「外商」です。外商とは、専属の担当者が上得意客のもとに足を運び、好みを把握して継続的に買ってもらう、いわば“お得意様ビジネス”。一度関係を築けば景気に関係なく毎年買ってもらえる、ストック型の収益基盤です。三越伊勢丹はこの外商を、デジタルでさらに強化しています。年会費無料のカード導入などで「識別顧客(誰が何を買ったかが分かる顧客)」を約835万人まで増やし、年300万円以上を使う上顧客も増加。店舗で客を待つ“館業”から、一人ひとりとつながる“個客業”へ――この転換が、訪日客が一服しても崩れない土台をつくっているのです。
一強の理由2. 旗艦店の集客力と、稼ぐ力の「質」
もう一つの強みが、伊勢丹新宿本店という日本一の旗艦店です。ラグジュアリーブランドや宝飾・時計が集まり、上顧客向けの招待会では過去最高売上を記録した企画も。ここでしか買えない体験が、富裕層を引き寄せます。
そして見逃せないのが、稼ぐ力の“質”の差です。三越伊勢丹の営業利益率は15%弱。高島屋やJ.フロントが11〜13%前後であるのに対し、同じ売上から残る利益が一回り厚い構造になっています。これは、三越伊勢丹が再生フェーズで人件費や家賃などの経費構造改革を徹底し、筋肉質な体質に変えてきた成果です。さらにクレジット・金融(エムアイカード)や不動産といった百貨店以外の事業も増益で、稼ぎ方が一本足になっていないのも強みです。「客層」「利益率」「多角化」の三つで、三越伊勢丹は一段抜けているのです。
5月の月次にも映る明暗
足元の月次売上を見ると、その差はさらに鮮明です。2026年5月、三越伊勢丹の国内百貨店売上は前年同月比+8.6%。なかでも伊勢丹新宿本店は+13.2%と二桁の伸び。高島屋も+10.8%と健闘しましたが、J.フロントの百貨店は+1.0%と出遅れました。インバウンドが復調に転じるなか、旗艦店の集客力で一歩抜ける三越伊勢丹の強さが、月次という“答え合わせ”でも裏づけられた格好です。実際この好調な数字を受け、株価は約2年ぶりの高値まで買われました。