はじめに

「老後資金はいくら必要ですか?」という質問を受けることがよくあります。最近では、新NISAを活用して積極的に資産形成に取り組む人も増えました。一方で、将来への不安から投資や貯蓄を優先するあまり、現在の生活を切り詰めてしまう人も少なくありません。

いわゆる「NISA貧乏」と呼ばれる状態です。老後に備えることはもちろん大切ですが、そのために今の楽しみや経験、人とのつながりまで犠牲にしてしまうのは本末転倒かもしれません。

老後不安とどう向き合えばよいのか。今回は、「今」と「将来」のバランスという視点から考えてみたいと思います。


老後不安が「今の損」を生んでいる

老後が不安で仕方ない。その気持ちはよくわかります。ですが、その不安のために、いま損をしている人がとても多いのではないでしょうか。はっきり言えば、「老後不安」の中には、必要以上に大きく捉えられているものも少なくありません。

最近話題になっている「NISA貧乏」の背景にも、この老後不安があります。「年金なんてあてにならない」と考え、とにかく資産を増やさなければと無理をしてしまう。しかし、社会保障を正しく理解すれば、そこまで極端に不安になる必要はありません。

問題は、その不安のために現在の生活を犠牲にしてしまうことです。過度な節約をして、楽しみや経験を削り、ただ資産形成だけを優先していく。それは本当に合理的な選択なのでしょうか。

実は、生活費を削ってまで老後資金を貯めるという行為は、「損」をしているとも言えるのです。

NISAに全力投資したAさんの老後

Aさんは、生活を切り詰めながら、毎月10万円をNISAに投資し続けました。例えば35歳から積み立てを始め、50歳で上限の1800万円に達した後も、65歳まで年3%で運用を続けたとすると、資産は約4300万円になる計算です。数字だけを見れば、大きな安心感があり、達成感もあるでしょう。

しかし、その裏で失っているものもあります。節約を優先するあまり、自己投資やキャリアアップの機会を逃し、収入が伸びなかった可能性です。仮に平均標準報酬額が月30万円程度で40年間働いた場合、年金は月13万台になるケースもあります。老後の生活費としては余裕があるとは言えず、資産の取り崩しが前提になるでしょう。

また、節約中心の生活を続けた結果、人との交流や趣味の幅も広がらず、老後の生活そのものが単調になってしまうかもしれません。

自己投資を優先したBさんの老後

一方で、Bさんのケースです。若い頃から毎月2万円をNISAに長期間積み立てた結果、65歳時点の資産は約1500万円になりました。Aさんと比べると少なく見えるかもしれません。

しかしBさんは、若い頃から自己投資や人との交流にお金を使ってきました。その結果、キャリアアップにつながり、収入は大きく伸びました。

平均標準報酬額が月60万円程度であれば、年金は月20万円程度になる可能性があります。さらに共働きであれば、夫婦で安定した年金収入を得られるケースもあるでしょう。

この場合、日常生活は年金収入でほぼ賄うことができ、1500万円の資産は旅行や趣味、あるいは介護への備えとして使うことができます。結果として、生活の余裕や満足度はむしろ高くなるでしょう。

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