はじめに

米国株に押し目買いが入りやすい理由

現在の米国株市場では、株価が下がると比較的早く買いが入りやすい構造があります。その背景を3つに分けて整理します。

巨額のMMF資金が買い余力になり得る

第一に、MMFに巨額の待機資金があることです。この資金は、すべてが株式市場に向かうわけではありませんが、投資家心理が改善したときの買い余力になり得ます。

米国企業の利益見通しはなお底堅い

第二に、米国企業の利益見通しがなお底堅いことです。S&P500の一株当たり利益、EPSの見通しが上向き基調にあるなら、株価の割高感はある程度吸収されます。

MMF資金を市場内にとどめる短期国債の役割

第三に、短期国債市場がMMF資金の受け皿になっていることで、金融市場全体の流動性が保たれやすいことです。
つまり、今の米国株は、業績期待・待機資金・国債市場の流動性管理という3つの要素に支えられていると言えます。

金利上昇は、MMFによる下支え効果を弱める

では米国株は上がり続けるのかというと、忘れてはいけないのが、金利上昇リスクです。米10年債利回りのような長期金利は、株価のバリュエーションに直接影響します。

金利が上がると企業の借入コストが上がります。住宅ローン金利も上がり、消費にもブレーキがかかります。さらに、投資家は株式よりも債券を選びやすくなります。

特に、PERの高いAI関連株や半導体株、ハイテク株は、将来の成長期待を前提に買われているため、金利上昇に弱くなります。

財政赤字の拡大は長期金利の上昇圧力になる

米国の財政状況を見ても、金利上昇リスクは無視できません。CBO、米議会予算局は、2026年度の財政赤字を1.9兆ドル、2036年には3.1兆ドルへ拡大すると見込んでいます。また、債務残高はGDP比で2026年末の101%から2036年には120%へ上昇すると予測しています。

国債発行が増え続けるなかで、投資家がもっと高い利回りでなければ米国債を買いたくないと考え始めると、長期金利には上昇圧力がかかります。そうなると、いくらMMFに待機資金があっても、株式市場は調整しやすくなります。

したがって、個人投資家はMMF資金があるから米国株は絶対に下がらないと考えるべきではありません。正しくは、金利が制御可能な範囲にある限り、待機資金が株式市場を下支えしやすい一方、金利が上がりすぎると、その下支え効果は一気に弱まる、ということです。

図

AI相場は「期待」から「利益化」を問われる段階へ

もうひとつのリスクは、AI相場への期待が大きくなりすぎていることです。AI関連株は、米国株上昇の中心テーマです。半導体、データセンター、クラウド、電力インフラ、ソフトウェアなど、AI投資の恩恵を受けると見られる企業に資金が集まっています。

実際、生成AIが一部の業務で生産性を高めるという研究結果はあります。例えばNBERの研究では、生成AIの利用が顧客対応業務の生産性を高め、特に経験の浅い労働者に効果が大きい可能性が示されています。

ただし、AIが経済全体の生産性をどこまで押し上げるかは、まだ完全には証明されていません。AIによる生産性向上は、業務内容や企業の使い方によって大きく差が出ます。2026年に公表されたプログラミング分野のメタ分析でも、生成AI支援は開発者の生産性にプラス効果を持つ一方、その効果は中程度で、環境によるばらつきが大きいとされています。

AI投資の回収が遅れれば、関連株は調整しやすい

株式市場は、将来を先取りして動きます。半歩先読みと言ったりしますね。まさにAIはそれによって企業利益が大きく伸びると期待されており、実際に設備などへの投資も進んでいることから、株価は先に上がっている状況です。

しかし、あとから「思ったほど生産性が上がらない」「AI投資に対する収益回収が遅い」「データセンター投資が過剰だった」と見られるようになると、AI関連株は調整する可能性があります。

つまり、AI相場については市場が期待しているほど早く、広く、利益に結びつくのか、ここが問われる局面がいずれ来る可能性があります。

個人投資家は株価指数だけでなく資金の流れを見る

改めてお伝えすると、個人投資家がこの環境で見るべきなのは、株価指数だけではありません。まず、米10年債利回りです。長期金利が落ち着いているうちは、株式市場は比較的強さを保ちやすい一方、急上昇する局面では、ハイテク株やAI関連株の調整に注意が必要です。

次に、MMF残高です。高水準で推移している間は、市場には待機資金が残っていると考えられますが、投資家がリスクを取りたいと思わなければ株式市場には向かいません。

さらに、米財務省の国債発行計画、S&P500のEPS見通し、AI関連企業の利益率や設備投資の回収見通しも確認したいところです。

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