はじめに

通知が来たら、この順番で動く

値上げ通知を受け取ったとき、借主には大きく4つの選択肢があります。

① 今の家賃のまま(応じない)
② 請求通りの金額を払う(応じる)
③ ①②の中間の金額で折り合う
④ 合わせ技で代替案を提示する

どの選択肢を取るにしても、まず以下の行動ステップを踏むことが大切です。

ステップ1:「今の家賃」を払い続ける

最も重要なルールは、支払いを止めないことです。

「納得できないから払わない」は絶対にNGです。値上げに同意していなくても、支払いをゼロにした瞬間、それは「家賃滞納」として扱われ、最悪の場合、退去を求められます。値上げに納得できない場合でも、従来の家賃を期日通りに払い続けることが居住権を守る絶対条件です。

ステップ2:大手不動産サイトで周辺相場を調べる

大家さん側の「周辺相場が上がった」という主張が事実かどうか、自分で確認しましょう。SUUMO・LIFULL HOME'S・アットホームなどで、同程度の築年数・広さ・駅距離の物件を検索するだけで、おおよその相場感がつかめます。周辺相場のデータは交渉の根拠として強力ですので、ここは手を抜かずに調べましょう。

ステップ3:値上げの根拠を確認する

大家さん側に値上げの根拠を確認しましょう。「値上げの理由を教えていただけますか?」「固定資産税の上昇や修繕費の増加など、根拠となる資料があれば提示していただけますか?」と丁寧に問い合わせることで、正当な主張かどうかを判断できます。

「周辺相場が上がった」という一言だけでは不十分で、具体的な説明がなければ法的にも主張が弱くなります。ステップ2で調べた相場データと照らし合わせながら、納得できる内容かどうかを冷静に見極めましょう。

ステップ4:管理会社や大家さんへ「書面」で意思表示をする

値上げを拒否(据え置きを希望)する場合、まずその意思を伝えます。言った・言わないのトラブルを防ぐため、必ずメールや書面など、記録に残る方法で伝えるのが鉄則です。連絡先は、契約書に記載されている管理会社または問い合わせ先に従いましょう。

文面は、以下のように簡潔にまとめれば十分です。

「周辺相場や現在の経済状況を鑑み、現在の賃料が妥当であると考えますので、誠に恐縮ながら今回の値上げには応じかねます」

調べた周辺相場のデータも添付しておくと、より説得力が増します。

ステップ5:歩み寄るなら電話・メールで代替案を提示する

「少しなら値上げに応じてもいい」「値上げを受け入れる代わりに見返りが欲しい」と考えるなら、条件交渉に切り替えましょう。このフェーズは大家さんとの「相談」になるため、まずは電話やメールで担当者の感触を探るのがスマートです。
たとえば、こんな提案が考えられます。

「5,000円の引き上げは難しいですが、2,500円であれば合意できます」
「提示の新賃料に応じますが、適用開始を6ヶ月後からにしてほしい」
「提示の新賃料に応じる代わりに、今回の更新料を半額にしてもらえるなら合意します」
※更新料は2年に一度のボーナス収入。大家さんにとって最優先なのは毎月の安定した家賃収入なので、更新料で譲ることへの心理的ハードルは意外と低いのです。

「月2,000円の引き上げに同意する代わりに、設置から10年が経過しているエアコンを最新型に交換してほしい」
※エアコン交換は大家さん側にとっても損ではありません。退去後の次の募集の際、「最新エアコン付き」は立派な営業ツールになるからです。

こうした提案は借主にとって合理的なだけでなく、大家さん側にとっても「退去されるより実利がある落とし所」として受け入れやすいラインになります。

なお、ステップ4の段階で「値上げは断りますが、〇〇していただけるなら検討します」とカードをまとめて出す場合は、一括して書面(メール)で提出するのがおすすめです。

なぜ交渉は有効なのか――大家さん側の本音

大家さん側が最も恐れているのは、交渉をこじらせて退去されることです。

空室になると、次の入居者が入るまで賃料収入がゼロとなり、さらに、クリーニング代・広告費という大きなコストもかかります。退去されるくらいなら、少し交渉条件を緩めてでも住み続けてもらう方が、大家さんにとっても実利がある——この構造を知っておくだけで、交渉の場での心理的な余裕がまったく変わります。

大家さん側が恐れているのは退去だけではありません。仮に話し合いが長引いたとしても、月10,000円の値上げで2年間のプラス収入はわずか24万円。それに対して、解決までにかかる手間・時間や場合によっては弁護士費用もかさみ、コストの方が大きくなることも少なくありません。つまり貸主にとって、強硬姿勢を貫くことは特別な理由がなければ「勝っても割に合わない」選択肢なのです。

だからこそ、具体的な代替案を示すことが、交渉を動かす最も有効な一手になります。

それでも解決しなかったら

交渉でも折り合いがつかない場合は、調停という制度があります。裁判とは異なり、調停委員が間に入って話し合いを促してくれる場で、合意がなければ成立しないため、強制的に何かが決まるわけではありません。

家賃値上げの通知は突然届くと動揺するものです。しかし普通借家契約の借主には法律という盾があります。周辺相場を調べ、記録を残しながら冷静に対話する——まずはそこから始めましょう。

交渉や今後の見通しに不安がある場合は、消費生活センターや自治体の無料法律相談、法テラスなどで専門家の助言を受けることもできます。一人で抱え込まず、使える窓口は積極的に活用してください。

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