はじめに
認知症による口座凍結と成年後見制度

特に大きな盲点は、認知症などで判断能力が低下した場合です。NISA口座の資産は、原則として本人の資産です。本人が元気で判断能力があるうちは問題ありませんが、認知症などでそれが低下した場合、金融機関は本人保護の観点から取引を制限することがあります。J-FLECも、認知症と判断されると株式の売買などの取引が制限され、口座が凍結された場合には成年後見制度の活用が必要になる可能性があると説明しています。(認知症になったら、運用資産はどうなる? 出典:金融経済教育推進機構 J-FLEC)
この点は、老後資金としてNISAを考えるうえで非常に重要です。例えばNISAで1,000万円、2,000万円と資産を作れたとしても、いざ介護費や施設費に使いたいタイミングで本人が操作できなければ、家族がすぐに売却できるとは限りません。家族だからといって、本人名義の証券口座を自由に動かせるわけではないのです。「増やしたのに、必要なときに使えない」という事態は、老後資産では現実的なリスクになります。
その場合に利用される制度が、成年後見制度です。これは、認知症などで判断能力が不十分になった方を保護し、 財産管理や契約行為を支えるための大切な仕組みです。ただし、利用するには家庭裁判所への申立てなどの手続きが必要で、すぐに資産を動かせるわけではありません。また、成年後見人の報酬は、本人の財産から支払われる場合があり、金額は家庭裁判所が決めます。東京家庭裁判所の資料では、通常の後見事務の目安として、管理財産額が1,000万円以下なら月額2万円、1,000万円超〜5,000万円以下なら月額3万〜4万円、5,000万円超なら月額5万〜6万円といった例が示されています。 ただし、これはあくまで目安であり、地域や事案によって異なりますのでご自身でもご確認ください。
ここで言えるのは、NISAを老後資金として育てるのであれば、「認知症になってから考える」のでは遅いということです。50代、60代のまだ元気なうちに、家族へ金融機関名や口座の所在を共有しておくこと、資産一覧を作っておくこと、必要に応じて任意後見や家族信託、金融機関の代理人サービスを検討しておくことが大切です。
家族サポート証券口座と証券会社選び
証券業界でも、高齢期の資産管理を支える仕組みが出てきています。例えば日本証券業協会は、「家族サポート証券口座」という仕組みを紹介しています。これは、将来の認知判断能力の低下に備えて、本人と信頼できる家族代理人との間であらかじめ任意代理契約を結び、必要なタイミングで家族代理人による取引などを可能にするサービスです。
もちろん、すべての証券会社で同じサービスが用意されているわけではありません。対象商品や手続きの範囲、代理人の権限も金融機関によって異なります。ただ、NISAを老後資金の柱として考えるなら、証券会社選びも「手数料が安い」「アプリが使いやすい」だけで決めないほうがよいと思います。若いうちはネット完結の便利さが大きな魅力になりますが、高齢期には電話対応、家族の関与、相続手続き、認知症対応といった部分がとても重要になります。