はじめに
NISA資産の相続時の扱い
相続の面でも、NISAには誤解されやすい点があります。NISAは運用益が非課税になる制度ですが、相続税まで非課税になるわけではありません。NISA口座内の資産も、相続が発生すれば相続財産として扱われます。国税庁は、NISA口座を開設している人が亡くなった場合、相続人は金融機関に「非課税口座開設者死亡届出書」を提出する必要があると説明しています。(NISA口座の新規開設又は変更に関する手続等について 出典:国税庁)
また、亡くなった方のNISA口座を、そのまま相続人のNISA口座へ移すことはできません。相続後は、通常、相続人の課税口座で引き継ぐことになります。つまり、NISAの非課税メリットは基本的に本人の生前の運用益に対するものであり、「NISAだから相続にも強い」と単純に考えるのは危険です。
これに対して、生命保険の死亡保険金には、相続人が受け取る場合に「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。相続対策まで含めて考えるなら、NISAだけで完結させるのではなく、現預金、課税口座、iDeCo、生命保険、不動産など、それぞれの役割を分けて考える必要があります。NISAは運用益の非課税には強い制度ですが、相続税対策そのものを目的とした制度ではありません。
介護施設の負担軽減制度と資産判定
さらに、介護施設に入る場面でも注意したい点があります。介護保険施設に入所する場合、所得や資産が一定以下の方には、食費や居住費の負担を軽減する「負担限度額認定」という仕組みがあります。この判定では、預貯金だけでなく、有価証券や投資信託なども資産として見られます。厚生労働省の資料では、預貯金や有価証券等の金額について、本人に配偶者がいない場合、段階に応じて1,000万円、650万円、550万円、500万円以下といった基準が示されています。
つまり、NISAで保有している投資信託や株式も、介護施設の負担軽減制度の判定では、基本的に資産として扱われる可能性が高いのです。ここも「NISAだから特別扱いされる」と考えないほうがよいでしょう。NISAは税制上の非課税口座であって、介護制度上の資産判定から外れる口座ではありません。
NISA資産と保険・年金商品の役割分担
一方で、生命保険については、負担限度額認定の資産勘案の対象外とされる扱いが示されています。厚生労働省の資料でも、保険事故に対する保障を目的とする資産は対象としないと示されています。 ただし、ここで注意したいのは、「ではNISAから生命保険や個人年金に移せば必ず有利」という話ではないことです。保険商品には、手数料、解約控除、死亡保障、年金の受け取り方、税務、代理請求制度の範囲など、内容に大きな違いがあります。特に変額個人年金は、運用実績によって将来受け取れる金額が変わる商品です。NISAで低コストのインデックス投信を持ち続ける場合と比べて、コストが高くなる場合や、途中解約で元本割れする可能性もあります。
したがって、NISA資産の一部を生命保険や個人年金へ移すという考え方は、出口戦略の一つとして検討の余地はありますが、万能ではありません。大切なのは、NISAを「増やす装置」、保険や年金形式の商品を「届ける装置」として分けて考えることです。
NISAは、資産を効率よく育てるには向いています。保険や年金形式の商品は、受け取りの仕組み、代理請求、死亡時の受取人指定など、NISAとは別の機能があります。どちらが優れているかではなく、人生の段階に応じて役割を分けるという発想が必要です。