はじめに
牛丼でおなじみの吉野家ホールディングス(9861)の株価が、いよいよ大きな節目に差しかかっています。7月8日に発表した第1四半期決算が市場の予想を上回る好内容となり、翌日には年初来高値を更新。数年にわたって続いてきた膠着相場を、上へ抜け出そうとしています。
実は、ちょうど1年前にも、この吉野家を取り上げました。当時はライバルのゼンショーと並んで、上場来高値が目前に迫っていた時期。ただ、あのときの吉野家の上昇は、信用取引で売り建てた投資家の買い戻し(踏み上げ)への思惑など、どちらかといえば需給や期待が先行した面もありました。それから1年、今回は実力を伴う決算で、あのとき手が届かなかった高値に本気で挑もうとしています。何が変わったのか、決算から見ていきましょう。
第1四半期は営業利益が2.4倍
まず数字の勢いに驚かされます。2027年2月期の第1四半期は、売上高587億円(前年比+12.5%)に対し、営業利益は25.4億円と前年の2.4倍、純利益も18.1億円と2.4倍に跳ね上がりました。増収率が1割強なのに利益は倍以上というのは、もうけの効率が飛躍的に向上したことを意味します。
去年の同じ第1四半期の営業利益は10.5億円で、増収増益とはいえ営業利益の伸びは2割ほど、経常利益はほぼ横ばいでした。数字の力強さが、明らかに一段上がっています。
なぜここまで伸びたのか
牽引役は、原点である牛丼そのものでした。牛丼と油そばを組み合わせた新セットが、販売開始から約1カ月で150万食を突破するヒット。新しいお客さんを呼び込むと同時に、既存のお客さんの来店頻度も高め、吉野家事業の第1四半期の既存店売上高は前年同期比11.0%増と大きく伸びました。安さで勝負するのではなく、魅力的なメニューで客数と客単価の両方を押し上げたことが、利益急拡大の原動力です。「はなまるうどん」や、米国・中国を中心とする海外事業も伸び、グループ全体の既存店も9.8%増と好調でした。
会社の説明で興味深いのは、利益がどう積み上がったかの内訳です。外食業界はいまも原材料の高騰と人件費の上昇という逆風のなかにあり、今回もコスト増が約8.6億円、利益を押し下げました。しかし、それを上回る約22.6億円分を、既存店の増収で稼ぎ出したのです。逆風をはねのけて余りある集客力。ここに、今の吉野家の強さが表れています。
1年前と比べて何が変わったのか
去年の記事では、吉野家を現時点の業績改善が評価される安定型と位置づけました。堅実だけれど爆発力にはやや欠ける、という見立てです。しかし今回の決算は、その安定型のイメージを超えてきました。環境は1年前と大きく変わっていません。それでも利益を倍以上に伸ばせたのは、値上げや効率化に加え、ヒット商品を生み出す商品開発力が噛み合ってきたから。値上げをしても客数がむしろ増える。この強さは1年前より明確です。思惑で買われた去年から、実力で買われる今年へ。株価の土台が入れ替わりつつあります。
去年記事:すき家、吉野家…牛丼チェーンの双璧は上場来高値目前! どちらが優勢?
好スタート、でも会社は慎重
ただし、投資家としてひとつ気になる点があります。進捗率です。第1四半期の実績は、通期計画に対して営業利益で約3割(29.9%)、純利益にいたっては約4割(37.0%)まで一気に進みました。単純に4分の1のペースを大きく上回る好スタートです。ならば上期や通期の上方修正もありそうなものですが、会社は業績予想を据え置いています。
なぜか。決算資料に理由は明記されていませんが、数字を読むといくつかの背景が見えてきます。外食は夏や年末年始に売上が偏る季節性があること。今回の純利益には固定資産の売却益といった一時的な利益が含まれ、それが進捗率を高めに見せていること。そして、建築資材の調達難で遅れている店舗改装など、これから出てくるコストが控えていること。好スタートを切りつつも、あえて慎重に構えているわけです。裏を返せば、今後の実績次第では上方修正の余地を残しているとも読めます。